判旨
犯罪後の法令により刑が廃止された場合に当たるとされるのは、法令の変更が事実関係の認識の変化に基づくものである場合に限られ、単なる経済事情の変動等による事実上の変更にすぎない場合は、既成の犯罪の成立に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
犯罪後に、処罰の根拠となっていた行政告示(統制額等)が廃止・変更された場合、刑法6条の「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当し、被告人を処罰できなくなるか。
規範
刑法6条及び刑事訴訟法405条等の規定にかかわらず、犯罪後の告示等の改廃が、特定の行為を罰することの必要性が失われたという法的評価の変更(法令の改廃)に基づくものではなく、単なる経済情勢の変化に応じた事実上の変更(事実の変更)にとどまる場合には、当該行為の処罰規定は依然として有効であり、既成の犯罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人は物価庁告示に基づく統制額に違反して物価統制令に違反する行為を行った。しかし、当該行為の後に、対象となった統制額を定めた告示(昭和23年物価庁告示第668号)が別の告示(昭和24年物価庁告示第955号)によって廃止されたため、被告人側は「犯罪後の法令により刑が廃止された」ものとして免訴あるいは刑の免除を求めて上告した。
あてはめ
本件における統制額の廃止は、物価情勢という流動的な経済的・事実的状況に適応させるための行政上の措置であり、当該行為自体の処罰価値を否定するような法的評価の変更とは認められない。したがって、既に行われた物価統制令違反という犯罪事実の成立は何ら左右されるものではなく、法令の廃止には当たらないと解される。
結論
犯罪後の告示の廃止は「刑の廃止」には該当せず、上告は棄却される。被告人には引き続き処罰が維持される。
実務上の射程
いわゆる「限時法」や「事実の変更」の理論を裏付ける判例。答案上は、法令の変更が『事実上の変更』か『法律上の変更(法的評価の変更)』かを区別する際の論拠として使用する。行政刑法や経済犯において、細則たる告示が変わっただけで処罰を免れることはできないとする実務上の要となる判断である。
事件番号: 昭和25(あ)1110 / 裁判年月日: 昭和26年1月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の罪が成立した後に統制額指定の告示が廃止されたとしても、既に成立した犯罪の可罰性は左右されない。 第1 事案の概要:被告人は、物価統制令に基づく統制額を超える価格で取引を行ったとして、同令違反の罪に問われた。しかし、当該犯罪の成立後、公判審理等の過程において、対象となっていた統制額を…
事件番号: 昭和26(れ)677 / 裁判年月日: 昭和26年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の行為後、統制価格に関する告示が廃止されたとしても、それは単なる事実の変化にすぎず、刑法6条及び刑事訴訟法402条(旧刑訴法363条)にいう「刑の廃止」には該当しない。 第1 事案の概要:被告人は、物価統制令3条に違反する行為(超過価格による取引等)を行った。しかし、当該行為の後に、…