記録によれば、原審において弁護人は控訴趣意として第一審判決の量刑不当を主張するに当り、その一理由に犯行が飲酒酩酊の上の行為であつたという事実を述べていることが認められる。この趣旨は、控訴審において右の酩酊の点を斟酌して科刑を減軽せんことを求める事情を述べたに過ぎないものと解せられるのであつて、所論の如く心身喪失または心身耗弱の主張であるとは認められないのであるから、この点につき原判決が判断を示していないことは当然であつて、刑訴法第三三五条二項に違反せず、論旨は理由がない。
量刑不当の控訴趣意中その一理由に犯行が飲酒酩酊によるものであるとの主張と刑訴法第三三五条第二項
刑法39条,刑訴法335条2項
判旨
控訴審が第1審判決を破棄して自判(刑訴法400条但書)する場合、第1審で取り調べた証拠については、控訴審であらためて証拠調べ手続を経ることなく、そのまま自判の証拠とすることができる。
問題の所在(論点)
控訴審が刑訴法400条但書に基づき自判を行う際、第1審で取り調べた証拠について、控訴審においてあらためて証拠調べ手続を経る必要があるか。
規範
刑事訴訟法400条但書により、控訴裁判所が訴訟記録及び第1審裁判所において取り調べた証拠に基づき直ちに判決(自判)できる場合には、第1審で適法に取り調べられた証拠は、控訴審においてあらためて証拠調べ手続を経ることなく、当然に判決の基礎とすることができる。
重要事実
被告人は建造物損壊等の罪に問われ、第1審で有罪判決を受けた。しかし、第1審判決には再犯加重の認定不備及び刑法14条の制限適用漏れがあったため、原審(控訴審)は第1審判決を破棄した。その際、原審は第1審の訴訟記録と証拠に基づき、自ら刑を言い渡す自判を行ったが、その過程で第1審の証拠について控訴審独自の証拠調べ手続を行わなかった。被告人側は、これが訴訟手続の違背であるとして上告した。
あてはめ
本件において、原判決は第1審判決の法令適用等の誤りを理由にこれを破棄し、刑訴法400条但書に従い自ら判決を下している。同条項は、第1審の証拠に基づき直ちに判決できることを想定した規定である。したがって、第1審で既に取り調べられた証拠については、控訴審で重ねて証拠調べを行わなくとも、その記録等に基づき事実認定を行うことは適法といえる。また、弁護人が量刑不当の理由として述べた「飲酒酩酊」の事実は、単なる情状の主張に過ぎず、責任能力に関する主張ではないため、これに対し判断を示さなかったとしても刑訴法335条2項の違法はない。
結論
控訴審が第1審の証拠に基づき自判する場合、あらためて証拠調べを行う必要はない。したがって、原判決の訴訟手続に違憲・違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
控訴審における自判(400条但書)の証拠調べの要否に関する基本的判例である。答案上では、事後審的性格を有する控訴審が、第1審の証拠資料をそのまま活用して事実認定を行うことの正当性を基礎付ける際に活用できる。また、弁護人が「酩酊」等の事実を単なる情状として述べた場合には、被告人の責任能力に関する主張(法律上の主張)とはみなされず、裁判所に判断を示す義務(335条2項)が生じないという点も実務上重要である。
事件番号: 昭和34(あ)2291 / 裁判年月日: 昭和35年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審が第一審判決の量刑不当を理由に破棄自判する場合、一審の事実認定を維持する限りにおいて、改めて証拠説明を行う必要はない。 第1 事案の概要:被告人Aは恐喝罪に問われ、第一審で有罪判決を受けた。検察官は量刑不当を理由に控訴した。原審(控訴審)は、一審が認定した事実に誤りはないとしつつも、犯行の動…