刑事責任の要件の一である因果関係が、法律上の観念であることはいうまでもない。しかし、具体的事案において因果関係があるか否かの判定は、結局当該行為が刑罰法令の定める要件を具備するか否かという事実判断に関するものであるから、単に一定の事情の下に或る行為と結果との間に因果関係を認め難いとしたにすぎない論旨援用の判例を以つて、これと全く異つた事情の下になされた行為と結果との間に因果関係ありとした原判決の判断を非難することはできない。従つて、論旨は判例違反を主張するけれども、その実質は単なる法令違反の主張に帰し、適法な上告理由とならない。
いわゆる因果関係と法令違反の主張に過ぎない判例違反を主張する上告の適否
刑訴法405条2号3号
判旨
刑法上の因果関係は法律上の観念であるが、その有無の判定は具体的事案において当該行為が刑罰法令の定める要件を具備するか否かという事実判断に関するものである。また、不法領得の意思をもって他人の占有する金員を持ち去る行為は窃盗罪を構成する。
問題の所在(論点)
1. 刑事責任の要件である因果関係の法的性質および判断の在り方。2. 恐喝行為に付随して金員を持ち去った行為について、窃盗罪の不法領得の意思および占有の帰属が認められるか。
規範
因果関係は法律上の観念であるが、具体的事案における因果関係の存否は、当該行為が刑罰法令の定める構成要件を具備するか否かという実質的な判断を伴う事実判断の性質を有する。また、窃盗罪の成立には、客体が他人の所有・所持に属すること、および権利者を排除し他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思(不法領得の意思)が必要である。
重要事実
被告人らは、被害者Cに対し恐喝行為を行い、さらに別個の行為としてCの所有および所持に属する金員を持ち去った。弁護人は、恐喝と窃盗が一個の行為であること、不法領得の意思が欠如していること、および行為と結果の間に因果関係がないこと等を理由に上告した。
事件番号: 昭和28(あ)5318 / 裁判年月日: 昭和30年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】2項恐喝罪の成立には、恐喝行為と不法な財産上の利益を得たこととの間に因果関係が必要であり、被害者の特定がなされていることを要する。 第1 事案の概要:被告人は、遊興施設等において恐喝行為に及び、その結果として遊興費等の支払を免れた。第一審判決では、被告人の各所為によって「同額の財産上不法の利益を受…
あてはめ
1. 因果関係について、弁護人は過去の判例を引用して因果関係を否定するが、本件は引用判例とは事案の性質が異なり、原判決が具体的な事実関係に基づき因果関係を肯定した判断に違法はない。2. 窃盗の点について、原判決は恐喝と窃盗を別個の行為と認定しており、被告人らが不法領得の意思をもって金員を窃取したと認めることができる。また、持ち去られた残金は依然として被害者Cの所有および所持に属していたと解される。
結論
因果関係の存否は事実判断に属し、原審の認定は正当である。また、他人の占有下にある金員を不法領得の意思で持ち去った以上、窃盗罪が成立し、恐喝罪との併合罪となる。本件各上告を棄却する。
実務上の射程
因果関係の判断が個別具体的な事実関係に依存することを強調する際に有用である。また、一連の暴行・脅迫の機会に財物を持ち去った場合でも、行為の個数や占有移転の態様によっては恐喝とは別個に窃盗罪が成立し得ることを示しており、罪数判断や占有の認定において参照すべき事例である。
事件番号: 昭和45(あ)1070 / 裁判年月日: 昭和46年6月17日 / 結論: 破棄差戻
致死の原因たる暴行は、必ずしもそれが死亡の唯一の原因または直接の原因であることを要するものではなく、たまたま被害者の身体に高度の病変があつたため、これとあいまつて死亡の結果を生じた場合であつても、右暴行による致死の罪の成立を妨げない。