致死の原因たる暴行は、必ずしもそれが死亡の唯一の原因または直接の原因であることを要するものではなく、たまたま被害者の身体に高度の病変があつたため、これとあいまつて死亡の結果を生じた場合であつても、右暴行による致死の罪の成立を妨げない。
暴行と致死の結果との間の因果関係
刑法240条,刑訴法405条2号
判旨
被告人の暴行が、被害者の有する高度の心臓疾患という特殊事情と相まって死亡の結果を生じさせた場合、たとえ被告人がその特殊事情を知らず、死の結果を予見できなかったとしても、暴行と死との間の因果関係は肯定される。
問題の所在(論点)
被害者の特殊な疾患が死因に寄与している場合において、行為者がその疾患を予見できず、かつ当該暴行のみでは通常死の結果が生じないときでも、刑法240条(強盗致死罪)における因果関係が認められるか。
規範
実行行為と結果との間の因果関係は、当該行為が結果発生の唯一または直接の原因であることを要しない。被害者の身体に高度の病変等の特殊事情があり、行為がその特殊事情と相まって結果を発生させた場合であっても、当該行為が結果を誘発したと認められる限り、因果関係の成立を妨げない。
重要事実
被告人は、高齢の被害者Aの胸倉を掴んで倒し、頸部を絞め、口部を夏布団で圧迫する等の暴行を加えて反抗を抑圧し、現金を強取した。Aは、極めて軽微な外因で死に至る重篤な心臓疾患を有していたが、被告人はこれを知らず、予見もしていなかった。Aは、被告人の暴行によって誘発された急性心臓死によりその場で死亡した。
事件番号: 昭和25(あ)574 / 裁判年月日: 昭和26年5月18日 / 結論: 棄却
刑事責任の要件の一である因果関係が、法律上の観念であることはいうまでもない。しかし、具体的事案において因果関係があるか否かの判定は、結局当該行為が刑罰法令の定める要件を具備するか否かという事実判断に関するものであるから、単に一定の事情の下に或る行為と結果との間に因果関係を認め難いとしたにすぎない論旨援用の判例を以つて、…
あてはめ
被害者Aの死因は被告人の暴行によって誘発された急性心臓死であると認められる。たとえ、被害者の重篤な心臓疾患という特殊事情がなければ死の結果が生じなかったと解され、かつ被告人がその事情を知らず死を予見できなかったとしても、暴行が特殊事情と相まって死をもたらした事実に変わりはない。したがって、被告人の暴行とAの死亡との間には法的な因果関係があるといえる。
結論
被告人の行為と被害者の死亡との間には因果関係が認められ、強盗致死罪が成立し得るため、因果関係を否定した原判決は失当である。
実務上の射程
被害者の持病(素因)が寄与した事案における因果関係の判断基準を示した重要判例である。答案上は、相当因果関係(折衷説)の枠組みで、介在事情が被害者の「素因」である場合には、その予見可能性の有無にかかわらず因果関係を肯定するのが実務の一般的な流れとなる。
事件番号: 昭和35(あ)2796 / 裁判年月日: 昭和36年5月24日 / 結論: 棄却
一 刑法第二四〇条後段の罪は、強盗犯人が故意に人を死に致した場合及び傷害に因り人を死に致した場合の両者を包含するものであつて、強盗罪と殺人罪との結合罪又は強盗罪と傷害致死罪との結合罪にほかならず、従つて、強盗殺人罪についてはただ刑法第二四〇条後段のみを適用すれば足ること、つとに大審院判例の示すところであつて、今なお、こ…
事件番号: 昭和53(あ)787 / 裁判年月日: 昭和55年11月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強盗殺人罪における死刑等の量刑判断において、犯行の動機、計画性、殺害手段の残虐性、結果の重大性を重視し、被告人の不遇な生い立ち等の有利な事情を考慮してもなお重刑がやむを得ないと判断される場合には、その科刑は正当である。 第1 事案の概要:被告人は、殺意を持って強盗殺人の犯行に及び、鼻背部割創に基づ…