一 昭和二四年一〇月二五日人絹糸が指定生産資材から除外されたことは所論のとおりである。しかし、人絹糸が将来に向つて統制から解除されたからといつて、既往においてその統制に違反し成立した犯罪の刑を廃止したと解すべき何等の理由も存しない。 二 判決において認定された犯罪事実は、単にいわゆる事実摘示の部分に局限して故らに狭く理解すべきではなく、挙示の証拠、引用された法条等判決書の全面に索めて広く理解すべきものであることは多言を要しない。
一 臨時物資需給調整法違反罪において人絹糸の統制解除以前に成立した犯罪と刑の廃止 二 判決においていかなる事実が認定されたかを理解する方法
臨時物資需給調整法1条,指定生産資材割当規則1条,衣料品配給規則1条,刑訴法337条2号,刑訴法335条1項
判旨
法令の改廃により処罰の根拠となった規定が削除されたとしても、それが単なる事実上の変更にすぎない場合には、刑法6条及び刑訴法411条5号にいう「刑の廃止」には当たらない。
問題の所在(論点)
行為当時は処罰対象であった法令違反について、裁判時にその規制(人絹糸の指定)が解除された場合、刑訴法411条5号の「刑の廃止」に該当するか。いわゆる「限時法」的性格を有する規制の改廃と、刑法6条の適用範囲が問題となる。
規範
法令の改廃が特定の政策的・臨時的要請に基づく事実上の変更にとどまる場合には、既往の違反行為に対する可罰性は消滅せず、刑法6条の「刑の廃止」には該当しない。すなわち、統制の解除という事実上の状況変化に基づく改正は、過去の行為の違法性を否定するものではない。
重要事実
被告人は、指定生産資材である人絹糸の統制に違反する行為を行った。しかし、当該行為後、判決前に人絹糸が指定生産資材から除外された。弁護人は、この法令の変更が「刑の廃止」に該当し、免訴または刑の減免の対象となるべきであると主張して上告した。
事件番号: 昭和25(あ)893 / 裁判年月日: 昭和26年10月12日 / 結論: 棄却
一 尤もその後、本件物資たる「いか油」は原判決宣告後たる昭和二五年四月一日総理府令、法務府令、外務省令、大蔵省令、文部省令、厚生省令、農林省令、通商産業省令、運輸省令、郵政省令、電気通信省令、労働省令、建設省令、経済安定本部令第六号により、新令(指定物資輸送証明規則)一条にいわゆる「指定物資」から除外され、従つて新令二…
あてはめ
本件における人絹糸の指定解除は、経済情勢の変化に伴い将来に向かって統制を解いたものにすぎない。これは、行為当時の違法評価自体を事後的に否定したものではなく、単なる事実上の変更といえる。したがって、既往の統制違反行為について成立した犯罪の刑を廃止したと解すべき理由は存在しない。
結論
本件の法令変更は「刑の廃止」には当たらず、被告人を処罰することは適法であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
法令改正が「刑の廃止」に当たるか「事実上の変更」に留まるかを区別する際のリーディングケースである。答案上は、改正の趣旨が「法律的見解の変更」か「単なる事実上の状況変化(政策的必要性の消滅)」かを検討する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和25(あ)1290 / 裁判年月日: 昭和26年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が主張する事実関係が原審によって認められない以上、前提となる統制の撤廃といった事情も認められず、刑訴法411条5号(刑の廃止)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が統制の撤廃された「特綿糸」の取引を主張して上告したが、第一審判決において本件綿糸が特綿糸である事実は認められていなかった。…
事件番号: 昭和25(あ)1669 / 裁判年月日: 昭和27年3月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】限時法の性質を有する法令が廃止された場合であっても、附則に「改正前の行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」旨の経過規定があるときは、刑の廃止(刑訴法411条5号等)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が臨時物資需給調整法に基づく薪炭需給調整規則に違反する行為を行ったが、その後…
事件番号: 昭和25(あ)406 / 裁判年月日: 昭和25年10月17日 / 結論: 棄却
本件において第一審判決は適用法令として臨時物資需給調整法第一条、第四条、衣料品配給規則第五条を掲げているが、同規則にいわゆる衣料品とは、その第一条第二項に基いて昭和二二年九月一〇日商工省告示第五八号によつて指定されているのであるから、臨時物資需給調整法の罰則を適用するには、衣料品配給規則第五条のほかに右告示第五八号を掲…
事件番号: 昭和27(あ)2831 / 裁判年月日: 昭和27年11月28日 / 結論: その他
所論は大赦にかからない灯油等についてもその後の統制廃止により刑の廃止があつたと主張するのであるが、昭和二七年三月三一日法律第二三号国際的供給不足物資等の需給調整に関する臨時措置に関する法律の附則四項によると、臨時物資需給調整法がなおその効力を有する間にした行為に対する罰則の適用については同法はその失効の日後もなおの効力…