一 尤もその後、本件物資たる「いか油」は原判決宣告後たる昭和二五年四月一日総理府令、法務府令、外務省令、大蔵省令、文部省令、厚生省令、農林省令、通商産業省令、運輸省令、郵政省令、電気通信省令、労働省令、建設省令、経済安定本部令第六号により、新令(指定物資輸送証明規則)一条にいわゆる「指定物資」から除外され、従つて新令二条一項の適用を受けないことになつたので、ここに刑の廃止があつた如く見える。しかし、この新令自体を廃止した昭和二六年三月三一日前同府令省令本部令第一号も、その附則二項において「この命令施行前にした行為に対する罰則の適用についてはこの命令施行後も、なお従前の例による」との規定を設けている。して見ると、旧令も新令もいわゆる限時法的性格を有するものと解するを相当とするから、昭和二五年四月一日の前記命令が本件物資たる「いか油」を新令一条にいわゆる「指定物資」から除外した際に、「罰則の適用については、なお従前の例による」と云うような附則を設けなかつたからといつて、立法者の意思がこの場合に限り「刑ノ廃止」の効果を生ぜしめようとするにあつたとは到底考えられない、(なお所論油糧需給調整規則の改廃についても同様のことがいえるばかりでなく、「いか油」を右規則の適用から除いた所論農林省令第二三号の附則二項は「この省令施行前にした行為に対する罰則の適用については、この省令施行後もなお従前の例による」と規定している)。以上の次第であるから本件は刑訴法四一一条五号にいわゆる判決後「刑ノ廃止」があつた場合にはあたらないものといわなければならない。 二 所論確定判決のあつた事件は、被告人がその生産にかかる「いか油」を油糧需給調整規則三条に違反してA、Bに自宅において譲渡した事実について、臨時物資需給調整法一条、四条に該当するものとして起訴され、右事実について有罪の判決を言い渡されて確定したものである。ところが、本件は被告人が右「いか油」を前記A、B方まで輸送するため、重要物資輸送証明規則三条に違反して法定の出荷証明書をなくして、その輸送方をC株式会社に委託した事実について、右は臨時物資需給調整法一条、四条に該当するものとして起訴された案件である。従つて、右両者は別個の犯罪を構成するものであるばかりでなく、その基礎たる事実関係においても同一性を認め難く、科刑上一罪として取り扱われる場合にも該当しない。
一 重要物資輸送証明規則及び指定物資輸送証明規則と限時法 二 指定物資輸送証明規則の改正により同規則第一条にいわゆる「指定物資」からいか油を除外したことと刑訴法第四一一条第五号にいわゆる「刑ノ廃止」 三 いか油を油糧需給調整規則第三条に違反して譲渡した行為と、これを重要物資輸送証明規則による出荷証明書なくして輸送を委託した行為との関係
臨時物資需給調整法1条,臨時物資需給調整法4条,重要物資輸送証明規則(昭和22年9月20日総理庁令、外務、内務、大蔵、司法、文部厚生、農林、商工、運輸、逓信、労働省令1号)1条,重要物資輸送証明規則(昭和22年9月20日総理庁令、外務、内務、大蔵、司法、文部厚生、農林、商工、運輸、逓信、労働省令1号)3条1項,重要物資輸送証明規則附則2項,重要物資輸送証明規則附則3項,指定物資輸送証明規則(昭和24年6月20日総理庁令外務、大蔵、法務庁令、文部、厚生、農林、通商産業、運輸、逓信労働、建設省令1号)1条,指定物資輸送証明規則(昭和24年6月20日総理庁令外務、大蔵、法務庁令、文部、厚生、農林、通商産業、運輸、逓信労働、建設省令1号)2条1項,刑訴法411条5号,刑訴法337条1号,油糧需給調整規則(昭和22年12月29日農林省令98号)1条,油糧需給調整規則(昭和22年12月29日農林省令98号)3条1項,刑法45条
判旨
限時法的性格を有する法令が改正され、対象物資が指定から除外された場合であっても、特段の事情がない限り、立法者の意思は過去の行為に対する刑を廃止するものではないと解するのが相当である。
事件番号: 昭和25(あ)404 / 裁判年月日: 昭和25年10月26日 / 結論: 棄却
一 昭和二四年一〇月二五日人絹糸が指定生産資材から除外されたことは所論のとおりである。しかし、人絹糸が将来に向つて統制から解除されたからといつて、既往においてその統制に違反し成立した犯罪の刑を廃止したと解すべき何等の理由も存しない。 二 判決において認定された犯罪事実は、単にいわゆる事実摘示の部分に局限して故らに狭く理…
問題の所在(論点)
法令改正により対象物資が指定から除外された場合、刑法6条及び刑訴法411条5号にいう「刑の廃止」に該当するか。特に限時法的性格を有する法令の改廃における立法者の意思の解釈が問題となる。
規範
特定の期間や状況に応じて定められる限時法的性格を有する法令においては、改正により対象物資が指定から外れたとしても、特段の事情がない限り、行為時の違反行為に対する罰則の適用を継続する意図(従前の例による趣旨)であると解される。したがって、明文の経過規定の有無にかかわらず、実質的に刑の廃止があったとは認められない。
重要事実
被告人は、重要物資輸送証明規則に基づき「指定物資」とされていた「いか油」を、法定の出荷証明書なく輸送委託したとして臨時物資需給調整法違反で起訴された。原判決後の法令改正により、「いか油」が同規則の「指定物資」から除外されたため、被告人側は、刑訴法411条5号の「刑の廃止」があったと主張して上告した。
あてはめ
本件の基礎となる重要物資輸送証明規則は、経済情勢に応じた物資の需給調整を目的とする限時法的性格を有する。改正により「いか油」が指定物資から除外された際、罰則適用に関する明文の附則が欠けていた。しかし、当該規制の性質上、特定の物資を除外したからといって、過去の違反行為の違法性評価までをも否定する立法者の意思があったとは考えられない。したがって、実質的な「刑の廃止」があったとはいえず、依然として行為時の罰則が適用されるべきである。
結論
本件における法令改正は「刑の廃止」にはあたらないため、上告を棄却し、有罪判決を維持するのが相当である。
実務上の射程
経済事犯や行政罰など、社会情勢により規制対象が頻繁に変動する「限時法」の場面における、刑法6条(法律の変更)の例外的な判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1669 / 裁判年月日: 昭和27年3月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】限時法の性質を有する法令が廃止された場合であっても、附則に「改正前の行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」旨の経過規定があるときは、刑の廃止(刑訴法411条5号等)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が臨時物資需給調整法に基づく薪炭需給調整規則に違反する行為を行ったが、その後…
事件番号: 昭和27(あ)2831 / 裁判年月日: 昭和27年11月28日 / 結論: その他
所論は大赦にかからない灯油等についてもその後の統制廃止により刑の廃止があつたと主張するのであるが、昭和二七年三月三一日法律第二三号国際的供給不足物資等の需給調整に関する臨時措置に関する法律の附則四項によると、臨時物資需給調整法がなおその効力を有する間にした行為に対する罰則の適用については同法はその失効の日後もなおの効力…
事件番号: 昭和27(あ)4912 / 裁判年月日: 昭和28年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】臨時物資需給調整法に基づく石油製品配給規則等が失効した場合であっても、法律の附則に「失効前の行為に対する罰則の適用については、なおその効力を有する」旨の経過規定があるときは、刑法6条(刑の廃止)には当たらず、処罰は維持される。 第1 事案の概要:被告人は、当時の「石油製品配給規則」等に違反する行為…
事件番号: 昭和25(あ)1290 / 裁判年月日: 昭和26年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が主張する事実関係が原審によって認められない以上、前提となる統制の撤廃といった事情も認められず、刑訴法411条5号(刑の廃止)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が統制の撤廃された「特綿糸」の取引を主張して上告したが、第一審判決において本件綿糸が特綿糸である事実は認められていなかった。…