一 論旨は、被告人の供述のみを採つて前科の事実を認めたことは憲法の精神を表現した刑訴法第三一九条第二項に違反するというのである。しかし、憲法第三八条第三項は、或る犯罪につき被告人を有罪とするには自白のほかに他の証拠を必要とする趣旨を明らかにしたものであり(昭和二三年(れ)第一四二六号同二四年一〇月五日に当裁判所大法廷判決)また被告人の前科は罪となるべき事実ではないから必ずしも証拠によりこれを認めた理由を示す必要はないのである(昭和二三年(れ)第七七号同二四年五月一八日当裁判所大法廷判決)。これら当裁判所大法廷の判決によれば論旨の理由ないことは明らかである。 二 論旨は、第一審判決において本件窃取の自転車を一万七千円位と不当に高価に認定したことは法の適正な運用を怠つたもので憲法の精神に反するし、第二審判決がそのまゝこれを肯定したこともまた憲法の精神に添わないものであるというのであるが、具体的に憲法の如何なる条規に反するかの主張が明らかでないので刑訴法第四〇五条に定める上告の事由に当らない。
一 被告人の供述のみにより前科の事実を認定することの正否と刑訴法第三一九条第二項 二 憲法違反の主張を具体的に明示しない上告の適否
憲法38条3項,刑訴法319条2項,刑訴法405条
判旨
被告人の前科は、被告人の自白のみによって認定することが可能であり、憲法38条3項や刑訴法319条2項にいう「自白のみによる有罪」の禁止には抵触しない。
問題の所在(論点)
被告人の前科の事実は、憲法38条3項および刑事訴訟法319条2項にいう補強証拠が必要な事項にあたるか。すなわち、前科が「罪となるべき事実」に含まれるか、それとも自白のみで認定可能な事項かが争点となった。
規範
憲法38条3項および刑訴法319条2項は、ある犯罪につき被告人を有罪とするために、自白以外の補強証拠を必要とする趣旨である。しかし、被告人の前科は「罪となるべき事実」そのものではないため、必ずしも証拠によってその理由を示す必要はなく、被告人の自白のみに基づいて認定することが許容される。
重要事実
被告人は窃盗罪(自転車の窃取)に問われ、第一審および第二審において有罪判決を受けた。その際、裁判所は被告人の供述(自白)のみに基づいて被告人の前科の事実を認定した。これに対し弁護人は、前科の事実を自白のみで認定することは刑訴法319条2項(補強法則)に違反し、憲法の精神に反すると主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、前掲の大法廷判決を引用し、補強法則が適用される範囲は「被告人を有罪とする」ための犯罪事実、すなわち「罪となるべき事実」に限られるとの立場を採った。被告人の前科は、犯情や刑の加重等の情状に関する事項であり、構成要件に該当する事実ではない。したがって、前科は「罪となるべき事実」には該当せず、自白のみによる認定が可能であると判断した。
結論
被告人の前科を自白のみで認定した原判決に、補強法則違反の違法はない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
被告人の前科は、刑の加重事由(累犯加重等)や量刑の判断材料となるが、補強法則の対象となる「罪となるべき事実」には含まれないことを明らかにした。実務上、量刑事情については厳格な証明が不要とされることの根拠の一つとなり得るが、特に累犯加重等に用いる場合は、検察官請求の犯歴照会回答書等が用いられるのが一般的であり、本判決は自白の証拠能力・証明力の限界を示すものとして理解される。
事件番号: 昭和25(あ)351 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠は、犯罪構成要件のすべてにわたって存在する必要はなく、自白と他の証拠を総合して犯行事実が認定できれば、犯人であることや共謀の事実は自白のみで認定しても憲法38条3項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が窃盗罪で起訴された事案において、第一審判決は被告人の公判廷における自白に基づき…