判旨
1箇の欺罔手段を施し同一人より数回にわたり財物を騙取した行為について、それらが単純一罪または包括一罪に当たるとする主張は、個別の詐欺行為の成否や罪数評価の問題であって、憲法の二重処罰禁止規定等に抵触するものではない。
問題の所在(論点)
同一の欺罔手段を用いて同一人から複数回財物を交付させた場合に、これを併合罪(刑法45条)等として処断することが、憲法39条の二重処罰の禁止や罪数論上の誤りに該当するか。
規範
同一の被害者に対し、単一の欺罔行為を継続的に用いて複数回にわたり財物を交付させた場合であっても、各交付行為ごとに詐欺罪が成立し、それらが単純一罪または包括一罪として評価されるべきかは、犯意の単一性や時間的・場所的連続性等の具体的事態に依存する。
重要事実
被告人は、同一の被害者に対して1箇の欺罔手段を施し、これによって合計10回にわたり財物を騙取した。第一審判決はこの10回の行為について詐欺罪の成立を認めた。これに対し、弁護人は当該行為が単純一罪または包括一罪に当たると主張し、原二審判決が判例違反や憲法39条(二重処罰の禁止)に違反する旨を上告理由として主張した。
あてはめ
本件において、1箇の欺罔手段による複数回の財物騙取行為は、各交付行為が独立した財産上の損害を構成するものである。被告人の主張は、第一審が認定した10回の詐欺行為を包括的に1罪と評価すべきという「擬律錯誤」の主張にすぎない。これは事実認定および法の適用に関する個別判断の問題であり、憲法が禁じる「同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問う」二重処罰の問題には当たらない。また、包括一罪等の主張は原審の判断を争う性質のものであり、適法な上告理由を規定した刑訴法405条に該当する事由とは認められない。
結論
本件の詐欺行為を単純一罪または包括一罪と解さない判断に擬律錯誤はなく、二重処罰の禁止等にも違反しない。本件上告は刑訴法405条の事由を欠き、棄却される。
実務上の射程
同一被害者に対する反復した騙取行為の罪数評価に関する実務上の指標となる。一連の欺罔行為が先行していても、財物の交付が複数回にわたる場合、原則として交付ごとに罪が成立し得ること、またその罪数評価の是非は憲法問題ではなく法律解釈・事実認定の問題であることを示唆している。
事件番号: 昭和27(あ)4832 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法39条後段が禁じる二重の危険の禁止は、同一事件の訴訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的状態における危険を指し、上訴審の手続もまたその同一の危険の各部分に含まれる。したがって、第一審の判決後に控訴審等において有罪判決を宣告することは同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が第一審で判…
事件番号: 昭和55(あ)2181 / 裁判年月日: 昭和56年2月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同一の犯罪について二重に処罰するものでない限り、量刑上の不利益が生じても憲法39条の二重処罰禁止の規定には違反しない。 第1 事案の概要:被告人が上告審において、量刑の不当性や憲法14条・39条違反を主張した事案。弁護人は、本件の処罰が二重処罰にあたると主張して上告したが、具体的な事案の詳細は本決…