判旨
堕胎罪の成立において、胎児が堕胎手術当時において生存していたことは、第一審判決が挙げた証拠を総合して認定できる限り、事実誤認の違法はない。
問題の所在(論点)
堕胎罪の客体である胎児の生存の認定において、原判決が証拠を総合して判断を示した場合に、事実誤認の主張に対する判断の不備や憲法違反が認められるか。
規範
刑法上の堕胎罪が成立するためには、客体である胎児が手術当時に生存していることが必要である。事実認定においては、第一審判決が摘示した証拠の内容を具体的に検討し、それらを総合して当該事実を認めることができる場合には、特段の事情がない限り、重大な事実誤認があるとはいえない。
重要事実
被告人は堕胎手術を行ったとして堕胎罪に問われた。第一審判決は、提出された証拠を総合し、本件胎児が手術当時において生存していたと認定し、有罪とした。これに対し弁護人は、控訴審において「重大な事実の誤認があることを疑うに足りる顕著な事由がある」と主張したが、原審(控訴審)は第一審の証拠に基づき、胎児の生存を認めることができるとして控訴を棄却した。弁護人は、原審が事実誤認の有無について判断を示していないとして上告した。
あてはめ
本件において、原審は控訴趣意書における事実誤認の主張に対し、第一審判決が挙げた証拠の内容を具体的に再検討している。その上で、証拠を総合すれば、本件胎児が手術当時生存していたという趣旨を包含する判示事実は優に認めることができると説示している。したがって、原審は弁護人の主張に対し明確な判断を与えており、判断を遺脱したという前提を欠く。また、証拠法則に基づき生存事実を肯定した点に理由齟齬等の違法も認められない。
結論
本件胎児が堕胎手術当時生存していた事実に誤認はなく、原判決に憲法違反や裁判の懈怠はないため、上告は棄却される。
実務上の射程
実務上、胎児の生存という堕胎罪の構成要件要素の認定において、証拠の総合評価によって認定が可能であることを示す。答案上は、事実認定のプロセスが適切であれば控訴審・上告審において覆されないことの根拠となるが、本件は判断遺脱の有無が主文の焦点となっている点に注意を要する。
事件番号: 昭和30(あ)522 / 裁判年月日: 昭和33年7月11日 / 結論: 棄却
一 優生保護法(昭和二七年法律第一四一号により改正されたもの)にいう指定医師が同法第一四条第一項四号に該当する者に対し、同条第一項本文の規定に従つて人工妊娠中絶を行つた場合には、刑法第二一四条、第二一二条の堕胎罪は成立しない。 二 最高裁判所、大審院または高等裁判所の判例がない場合、地方裁判所の判例を援用して判例の違反…