第一審判決は、正犯の公訴事実に対し幇助として事実認定をすると共に、さらに正犯について無罪である旨を理由中において説示しているのは、所論のように「無罪と判断した公訴事実に対して重ねて有罪を認定している」のではなく、公訴事実そのまゝの正犯は成立しないが幇助罪は成立するという趣旨を言い現わしたものに過ぎない。従つて、本件においては刑訴四一一条を適用すべきものと認められない。
正犯の公訴事実を、幇助と認定し、正犯について無罪を説示した判決の当否
刑訴法317条,刑訴法256条,刑訴法405条,刑訴法411条
判旨
正犯として起訴された事実について、正犯の成立を否定しつつその幇助犯を認定することは、被告人の防御に実質的な不利益がない限り、訴因変更手続を経ずに行うことができる。
問題の所在(論点)
正犯として起訴された事実について、訴因変更手続を経ることなく、理由中で正犯を否定した上で幇助犯を認定することが許されるか(刑訴法312条1項、256条3項)。
規範
訴因変更手続の要否については、審判対象の画定という観点に加え、被告人の防御権保障の観点から判断すべきである。正犯として訴追された事実の範囲内で、実行行為の分担の程度が低い幇助犯を認定することは、通常、被告人の防御に実質的な不利益を及ぼさない限り、訴因変更なしに許容される。
重要事実
被告人が正犯として公訴提起されたが、第一審判決は、理由中において正犯としての公訴事実については無罪である旨を説示しつつ、同一の公訴事実の範囲内において幇助罪の成立を事実認定して有罪とした。これに対し弁護人は、無罪と判断した公訴事実に対して重ねて有罪を認定した矛盾があるとして上告した。
事件番号: 昭和25(あ)2975 / 裁判年月日: 昭和27年10月14日 / 結論: その他
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あてはめ
第一審判決の説示は、公訴事実どおりの正犯は成立しないものの、その同一性の範囲内で幇助罪が成立するという趣旨を明らかにしたものである。これは無罪と有罪を矛盾して認定したものではなく、正犯として訴追された事実の範囲内でより軽い責任形態を認定したものに過ぎない。したがって、被告人の防御に実質的な不利益が生じるとはいえず、訴因変更を要しない事実認定の範囲内といえる。
結論
正犯の公訴事実に対し、訴因変更を経ずに幇助犯として有罪を認定することは適法であり、本件上告は棄却される。
実務上の射程
訴因の縮小認定(正犯から幇助、強盗から窃盗等)が許容される典型例を示す判例である。答案上は、審判対象の画定および防御権の保障という訴因の機能を指摘した上で、認定される事実が当初の訴因に含まれ、かつ被告人の不意打ちにならないことを示す際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1587 / 裁判年月日: 昭和26年3月2日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和27(あ)4996 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の事案において、第一審が認定した事実に対し同令を適用したことは適法であり、刑訴法411条を適用して原判決を破棄すべき事由も認められない。 第1 事案の概要:被告人A、B、Cが物価統制令違反の罪に問われた事案である。第一審および控訴審において有罪判決が下されたが、被告人側は量刑不当また…
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