一 そして法令違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるか否かは、裁判所が諸般の点を考慮して決すべき問題である。されば、原判決が所論に摘示のごとく第一審判決には証拠能力を欠く所論供述調書の記載を証拠とした違法の存することを認めながら、その挙示する他の証拠を検討しても判決に影響を及ぼさないものと判示したことは当裁判所においても首肯しうるところであるから(昭和二五年(あ)第二四九〇号同二六年七月二六日当法廷判決参照)原判決はこの点において違法がない。 二 次に論旨後段の各供述調書中犯罪事実に関する部分の記載については被告人A同B同Cにおいてこれを証拠とすることに同意をしていないし、右各供述調書はいずれも刑訴三二一条三項に定める要件を備えていないこと記録上明らかであるから、被告人A以下二名についての判示事実認定の証拠とすることはできない筋合である。されば第一審判決が所論の各調書を被告人A以下二名についての判示事実認定の証拠としたのは違法たるを免れないのではあるが、所論の各供述調書を除きその他の第一審判決挙示の証拠だけでも被告人A以下二名についての判示事実の認定の肯認しうるのであるから、右の違法は第一審判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違反ではない。 三 第一審判決は審判の請求を受けた事件について判決をしない違法があるというにあつて、単なる訴訟法違反の主張に帰し明らかに刑訴四〇五条に定める上告の理由にあたらない。
一 採証に関する法令違反と判決に対する影響の有無 二 証拠能力のない証拠を他の証拠と綜合して事実認定した判決の違法と原判決に影響を及ぼさないこと明らかな場合 三 判断遺脱の主張と刑訴法第四〇五条
刑訴法379条,刑訴法317条,刑訴法321条3項,刑訴法410条,刑訴法411条1号,刑訴法405条,刑訴法392条
判旨
訴訟手続に法令違反がある場合でも、他の証拠によって事実認定が可能であれば、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは認められず、控訴理由とはならない。また、共同被告人の供述は、相互に他の共同被告人の自白を補強する証拠となり得る。
問題の所在(論点)
証拠能力を欠く証拠が採用された訴訟手続の法令違反は、いかなる場合に判決に影響を及ぼすといえるか。また、共同被告人の供述は自白の補強証拠となり得るか。
規範
刑訴法379条の「判決に影響を及ぼすことが明らかである」とは、裁判所が諸般の事情を考慮して決すべき問題であり、証拠能力のない証拠が採用されていても、他の適法な証拠によって判決の結論が維持できる場合にはこれに当たらない。また、共同被告人の供述は、他の共同被告人の自白に対する補強証拠となり得る。
事件番号: 昭和25(あ)2673 / 裁判年月日: 昭和26年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項及び刑訴法319条2項にいう「自白」とは、犯罪事実の全部を認める場合に限られず、客観的な犯罪構成要件に該当する事実の一部であっても、自白のみを唯一の証拠として有罪とすることはできない。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、それぞれ有罪の判決を受けた。第一審判決は、両被告人の自白を証拠…
重要事実
第一審において、被告人らの同意がなく、かつ刑訴法321条3項の要件も備えていない証拠能力を欠く供述調書が事実認定の証拠として採用された。これに対し、被告人側は訴訟手続の法令違反や、共同被告人の供述を補強証拠とすることの不当性、さらに各自白のみによる認定(憲法38条3項違反)などを主張して上告した。
あてはめ
本件では、第一審が証拠能力のない供述調書を採用した点には法令違反が認められる。しかし、記録上、当該調書を除外しても、他に挙示された適法な証拠(他の供述調書や証拠物等)のみによって被告人らの犯罪事実を十分認定できる。したがって、当該違反は判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。また、自白の補強証拠については、共同被告人の供述が他の被告人の供述と相互に補強し合う関係にあるため、憲法38条3項にも反しない。
結論
証拠能力のない証拠の採用という法令違反はあるが、他の証拠で事実認定が可能であるため、判決に影響を及ぼすものとはいえず、棄却を免れない。共同被告人の供述による補強も適法である。
実務上の射程
訴訟手続の法令違反(刑訴法379条)の主張に対する反論として、証拠の「代替可能性」や「重要性」を論じる際の論拠となる。また、補強証拠の要否において共同被告人の供述を利用する際の判例根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)497 / 裁判年月日: 昭和25年7月7日 / 結論: 棄却
被告人の自白の外に相被告人の供述を補張證據とした場合には憲法第三八條第三項に違反しないことは既に當裁判所屡次の判例(昭和二二年(れ)第一一八號同二三年七月七日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一一二號同年七月一四日大法廷判決等)とするところであつて、今これを變更するの必要を認めないのみならず刑訴法第三一九條第二項の解釋にお…
事件番号: 昭和25(あ)1747 / 裁判年月日: 昭和26年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に基づかない事実認定や証拠調べを経ていない証拠の採用は訴訟法違反を構成し得るが、原判決がそのような判断を示していない以上、判例違反等の適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が一審判決に対し控訴したが棄却されたため、上告した事案。上告人は、原判決の事実認定に際し、総合証拠の中に…