一 第一審判決は、被害者Aが、被告人は検事であるから代金は支払つてくれるものと誤信した結果、金約五百円に相当する酒食を被告人に提供した事実を認定し、原判決もこの事実認定を肯定しているのである。しかるに所論援用の当裁判所判例では、被害者は畏怖の結果として財物の交付をするに至つた場合なのであるから、本件とは事例を異にし、従つて、原判決は何等右判例と相反する判断を示しているものではない。 二 判決書には裁判所名を示すを以て足り部名を表示することは、刑訴法上要請されていない。
一 事実認定を異にする判例を援用してした判例違反の主張の適否 二 判決書に裁判所の「部名」を表示することの要否
刑訴法405条2号,刑訴法405条3号,刑訴法44条,刑法246条,刑法249条,刑訴規則55条,刑訴規則58条
判旨
検察官という身分を利用し、代金支払の意思や能力がないにもかかわらず、支払われるものと被害者を誤信させて酒食の提供を受ける行為は詐欺罪を構成する。恐喝罪が成立する場合とは異なり、被害者の交付行為が畏怖ではなく誤信に基づく場合には詐欺罪の成否が問題となる。
問題の所在(論点)
被告人が検事という身分を利用し、代金支払の意思がないのに酒食の提供を受けた行為について、被害者の「誤信」に基づく財産的処分行為が認められ、詐欺罪が成立するか。特に、畏怖に基づく恐喝罪との区別が問題となる。
規範
詐欺罪(刑法246条)における欺罔行為とは、相手方を錯誤に陥らせ、その錯誤に基づく財産的処分行為を行わせる行為をいう。特に代金支払を要する取引において、当初から支払意思も能力もないのに、それがあるかのように装って給付を受ける行為は、相手方の財産的処分に関する重要な事項を偽るものとして欺罔行為に該当する。
重要事実
被告人は検事という身分を有していた。被告人は、実際には代金を支払う意思や能力がなかったにもかかわらず、被害者Aに対し、その身分を背景に代金は後日支払われるものと信じ込ませた。被害者Aは、被告人が検事であることから代金は確実に支払ってもらえるものと誤信し、その結果、被告人に対して金約500円相当の酒食を提供した。
あてはめ
被告人は検事という社会的信頼のある公職にある身分を誇示または利用しており、これが被害者の信頼形成に寄与している。被害者は「検事であるから代金は支払ってくれるもの」と誤信しており、この誤信は被告人の態度や身分提示に誘起されたものといえる。この誤信がなければ酒食という財産的価値のある利益を無償で提供することはなかったといえるため、錯誤と処分行為との間の因果関係が認められる。本件は、被害者が恐怖を感じて財物を交付した恐喝の事案とは異なり、支払への信頼という「誤信」の結果として交付がなされているため、詐欺罪の構成要件を充足する。
結論
被告人に詐欺罪が成立する。被害者が畏怖ではなく、被告人の身分を信頼したことによる「誤信」の結果として酒食を提供した以上、詐欺罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、身分を利用した詐欺と恐喝の限界を示す一事例である。答案作成上は、被害者の心理状態が「畏怖」か「誤信」かを事実関係から慎重に区別し、本件のように支払への信頼が処分行為の動機となっている場合には詐欺罪として構成する際の論拠となる。利益詐欺(2項詐欺)の文脈でも、代金支払義務の免脱や給付の受領について同様の論理が適用可能である。
事件番号: 昭和25(れ)761 / 裁判年月日: 昭和26年2月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の行為が詐欺罪(刑法246条1項)に該当するか、あるいは横領罪(刑法252条1項等)に該当するかという罪数・罪名選択の点において、証拠に基づき欺罔行為による財物の交付が認められる場合には詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が行った具体的な行為の内容や、被害者から財物の交付を受けた際の…