記録について調べてみると、第一審公判において、裁判官、検察官及び弁護人と被告人との間に、所論の如き問答がなされ、検察官による質問に対しては、異議の申立があり、これが却下され検察官が質問を継続した経緯を認めることができる。しかし右の如き問答や経緯を検討してみても、その質問内容が所論のように、釈明権行使の範囲を遥かに逸脱し、争点を明らかにする必要の限度を越えたものであつて、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある違法の被告人尋問であるということはできない。
証拠調前に被告人に対し公訴事実につき尋問しても釈明権行使の範囲を逸脱したことにならない例
刑訴法291条,刑訴法311条
判旨
証拠調べ開始前になされた被告人に対する公訴事実の尋問は、釈明権行使の範囲を逸脱し争点明確化の限度を超えて裁判官に予断を生じさせるおそれがない限り、直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
証拠調べ開始前の段階における被告人尋問が、釈明権行使の範囲を逸脱し、予断排除原則に反する違法なものといえるか。
規範
刑事訴訟法291条の手続終了後、証拠調べに入る前に被告人に対し公訴事実について尋問することは、必ずしも違法ではない。もっとも、その尋問が釈明権行使の範囲を逸脱し、争点を明らかにする必要の限度を超え、裁判官に予断を生ぜしめるおそれがある場合には、違法な被告人尋問となる。
重要事実
第一審の公判において、冒頭手続終了後、証拠調べが開始される前の段階で、裁判官、検察官および弁護人と被告人との間で公訴事実に関する問答がなされた。検察官の質問に対し、弁護人から異議の申し立てがあったが却下され、検察官による質問が継続された。被告人側は、この尋問が釈明権の範囲を逸脱した違法なものであると主張して上告した。
あてはめ
本件における問答の内容や経緯を検討すると、その質問内容は釈明権行使の範囲を逸脱したものではなく、争点を明らかにする必要の限度内に留まっていると解される。したがって、裁判官に予断を生じさせるおそれがあるような違法な被告人尋問が行われたとは認められない。
結論
証拠調べ開始前の尋問は違法ではなく、原判決の判断は正当である。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
公判中心主義の観点から、証拠調べ前の実質的な被告人尋問は慎重であるべきだが、争点整理のための釈明の範囲内であれば許容される。答案上は、予断排除原則(刑訴法256条6項参照)との関係で、争点明確化の必要性と予断が生じる危険性の比較衡量を行う際の枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1653 / 裁判年月日: 昭和26年3月29日 / 結論: 棄却
記録を精査すると、本件では、裁判官は検察官の立証前所論相被告人に対し何等詳細な訊問をしていない。ただ被告人自身の弁護人橋本福松が検察官の立証に入るに先立ち相被告人Aに対し詳細な質問をし同人がこれに対し任意供述しているに過ぎない。そして、刑訴第三一一条二、三項によれば、被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも…