記録を精査すると、本件では、裁判官は検察官の立証前所論相被告人に対し何等詳細な訊問をしていない。ただ被告人自身の弁護人橋本福松が検察官の立証に入るに先立ち相被告人Aに対し詳細な質問をし同人がこれに対し任意供述しているに過ぎない。そして、刑訴第三一一条二、三項によれば、被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができ、弁護人、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて前項の供述を求めることができるのであるから、前記弁護人質問は違法ではない。されば、所論引用の高等裁判所の判例はいずれも本件に適切ではない。
証拠調前において弁護人がした共同被告人に対する公訴事実に関する質問の適否
刑訴法291条,刑訴法292条,刑訴法311条
判旨
刑事訴訟法第311条に基づき、検察官による証拠調べの開始前であっても、被告人が任意に供述する場合には、裁判長による質問や弁護人等による供述の要求を行うことは適法である。
問題の所在(論点)
検察官による証拠調べ(立証)が開始される前の段階において、弁護人が共同被告人に対して供述を求め、これに基づき共同被告人が任意に供述する手続の適法性が、刑事訴訟法第311条との関係で問題となった。
規範
刑事訴訟法第311条第2項及び第3項によれば、被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は何時でも必要とする事項につき供述を求めることができ、弁護人、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて供述を求めることができる。また、同法第291条の手続終了後、証拠調べに入る前に裁判官が被告人に対し公訴事実について質問することも、必ずしも違法ではない。
重要事実
本件において、裁判官は検察官の立証前に相被告人に対し詳細な尋問を行っていなかった。しかし、被告人自身の弁護人が、検察官の証拠調べ(立証)に先立ち、相被告人に対して詳細な質問を行い、相被告人がこれに対して任意に供述した。弁護人は、このような証拠調べ前の供述要求が違法であると主張して上告した。
あてはめ
刑事訴訟法第311条は、被告人が任意に供述する場合、裁判長や弁護人による供述要求を認めている。本件では、弁護人が裁判長に告げる等して相被告人に対し供述を求めた際、相被告人はこれに応じて任意に供述を行っている。同条項には時期的な制限が明文化されておらず、証拠調べの前であっても被告人の自発的な意思に基づく供述である限り、同条の予定する手続の範囲内といえる。したがって、冒頭手続後、証拠調べ開始前に行われた本件の質問および供述は適法である。
結論
本件における証拠調べ前の弁護人による質問および相被告人の任意供述は、刑事訴訟法第311条に適合し適法である。
実務上の射程
本判決は、証拠調べ開始前における被告人質問や供述要求の許容性を認めたものである。実務上、冒頭手続直後に被告人の認否や供述を明確にする場面で引用され得るが、あくまで被告人の「任意」の供述であることが前提となる。黙秘権等の不告知がある場合には別途違法性が問題となり得る点に留意すべきである。
事件番号: 昭和26(あ)1686 / 裁判年月日: 昭和27年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法291条の冒頭手続終了後、証拠調べを開始する前に裁判官が被告人に対して公訴事実について質問を行うことは、適法な訴訟手続である。 第1 事案の概要:被告人Bの弁護人は、刑事訴訟法291条による冒頭手続(人定質問、起訴状朗読、権利告知、被告人・弁護人の陳述)が終了した直後、証拠調べに入る前の…