判旨
刑の執行猶予を裁定するにあたり、被告人が別件で起訴され係属中である事実を「経歴」等の情状として考慮することは、無罪推定の原則に反せず許容される。
問題の所在(論点)
裁判所が刑の執行猶予の適否を判断するにあたり、被告人が他の犯罪で起訴され裁判が係属中である事実を、情状(被告人の経歴等)として考慮することは許されるか。
規範
刑の執行猶予の適否は、裁判所の裁量に委ねられており、犯人の性格、年齢、経歴、犯罪の情状等を総合的に参酌して決定される。その際、被告人が別件で起訴され裁判が係属中であるという客観的事実を、被告人の経歴や素行に関する資料の一つとして考慮することは、直ちに無罪推定の原則に抵触するものではない。
重要事実
被告人は本件の刑事裁判において、刑の執行猶予を求めていた。原審(名古屋高裁)は、被告人が本件とは別に公文書偽造行使および詐欺の罪で起訴され、同裁判所に控訴中の事案があることを確認した。原審は、この別件係属の事実を、被告人の経歴や情状の一部として、本件で刑の執行を猶予すべきか否かを判断するための裁定資料の一つに供した。これに対し被告人側は、未確定の別件を考慮することは、刑法25条1項の欠格事由の誤認であり、かつ無罪推定の原則に反すると主張して上告した。
あてはめ
原判決は、別件が係属中であることをもって直ちに刑法25条1項にいう「禁錮以上の刑に処せられたとき」に該当し、法律上執行猶予が不可能であると判断したわけではない。あくまで執行猶予を認めるのが相当かという裁量判断において、犯人の経歴として別件起訴の事実を資料としたに過ぎない。このような考慮は、被告人の性格や社会的背景を把握するための客観的事実の参照であり、別件を直ちに有罪と断定するものではないため、無罪推定の原則を否定したことにはならない。
結論
別件起訴・係属の事実は、執行猶予の適否を判断する際の裁量資料として参酌できる。本件上告は棄却される。
実務上の射程
量刑判断(特に執行猶予の裁定)において考慮できる「情状」の範囲を示す。別件の起訴事実は、犯人の素行や更生可能性を評価する「犯人の性格、年齢、経歴、犯罪の情状等」に含まれる。答案上、余罪の考慮が問題となる場面で、本判例を参考に「経歴」としての考慮と「実質的な別罪の処罰(量刑への直接反映)」を区別する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)3178 / 裁判年月日: 昭和28年2月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行猶予の付与に関する判断は、原則として事実審の裁量に属する事項であり、執行猶予を付さなかったことが単なる量刑不当の主張に帰する場合、それは適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、第一審が本来執行猶予を付すべき事案であるにもかかわらず、法律上これを付し得ないものと誤認して実刑を科…