一 原判決がその後になされた最高裁判所の判決と相反する判断をしていても、刑訴第四〇五条第二号にいわゆる最高裁判所の判例と相反する判断をしたことにはならない。 二 併合罪の関係に立つ数罪が前後して起訴され、後に犯した罪につき刑の執行猶予が言渡されていた場合に、前に犯した罪が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言渡されたであろうような特別の事情を審究することなく、刑法第二五条第一号(昭和二八年法律第一九五号による改正前のもの)により刑の執行を猶予できないとした判決は、法令の解釈を誤つたもので刑訴第四一一条第一号に該当する。
一 原判決後になされた最高裁判所判決は、刑訴第四〇五条第二号にいう判例か 二 刑訴第四一一条第一号にあたる一事例 ―刑法第二五条第一号の解釈の誤り―
刑訴法405条2号,刑訴法411条1号,刑法25条(昭和28年法律第195号による改正前のもの)
判旨
併合罪の関係にある数罪が前後して起訴され、後罪につき既に執行猶予が言い渡されている場合、前罪が同時審判されていれば一括して執行猶予が付されたであろう特段の事情がある限り、前罪にも執行猶予を言い渡すことができる。
問題の所在(論点)
併合罪の関係にある数罪が分離して起訴され、後罪について執行猶予付きの判決が言い渡されている場合に、前罪の審理において、被告人は刑法25条1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者」に該当し、重ねて執行猶予を受けることができるか。
規範
刑法25条1号にいう「前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者」とは、原則として実刑判決を受けた者を指すが、併合罪の関係にある数罪が前後して起訴された場合には例外が認められる。すなわち、後に犯した罪について既に執行猶予が言い渡されている場合において、前に犯した罪が同時審判されていたならば一括して執行猶予が言い渡されたであろうときは、刑法25条1号の「刑に処せられたる」とは実刑を言い渡された場合を指すと解するのが相当である。
重要事実
被告人が犯した併合罪の関係に立つ数罪について、前後して起訴がなされた。後に犯した罪(後罪)について、先に判決が下され、懲役刑の執行猶予が言い渡されていた。その後、先に犯していた罪(前罪)についての審理が行われたが、原審は、後罪の執行猶予判決の存在を理由に、被告人を「前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者」に該当しないと判断し、前罪について執行猶予を付さなかった一審判決を支持した。
あてはめ
本件のように併合罪が分離起訴された場合、同時審判の可能性という偶然の事情によって執行猶予の可否が左右されることは不合理である。したがって、前罪と後罪が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言い渡されたであろうという「特別の事情」の存否を審究すべきである。原審は、このような事情の有無を調査することなく、後罪の判決があることをもって直ちに刑法25条1号に該当しないと断じた点に、法令解釈の誤りがある。
結論
被告人が刑法25条1号の要件を満たす余地があるため、原判決を破棄し、同時審判されていた場合に一括して執行猶予が付されたであろう事情の存否を審理させるため、事件を原審に差し戻す。
実務上の射程
併合罪の分離起訴(いわゆる「余罪」の追起訴等)において、既に確定または宣告された執行猶予判決が「前科」として執行猶予の障害となるかという論点で活用する。答案上は、同時審判の可能性という手続的公平の観点から、刑法25条1号を限定解釈する論拠として用いる。
事件番号: 昭和29(あ)2459 / 裁判年月日: 昭和31年5月30日 / 結論: 棄却
一 刑法第二五条第二項は、執行猶予の期間内さらに罪を犯した場合にその刑の執行猶予を言渡すときの条件のみを規定したものであつて、いわゆる余罪につき刑の執行猶予を言い渡す場合の条件までをも規定したものではない。 二 (裁判官斎藤悠輔の小数意見) 刑法二五条二項の一年以下の懲役又は禁錮の条件はいわゆる余罪に対すると猶予の期間…