一 刑法第二五条第二項は、執行猶予の期間内さらに罪を犯した場合にその刑の執行猶予を言渡すときの条件のみを規定したものであつて、いわゆる余罪につき刑の執行猶予を言い渡す場合の条件までをも規定したものではない。 二 (裁判官斎藤悠輔の小数意見) 刑法二五条二項の一年以下の懲役又は禁錮の条件はいわゆる余罪に対すると猶予の期間内さらに罪を犯した場合に対するとを問わず等しく合理的であつて、執行猶予制度本来の立法趣旨に適合するものといえよう。いわゆる余罪に対する執行猶予(なお、刑法二六条の二第三号参照)の条件を拡張せんとする多数説の考え方は、ただに法文の字句に副わないばかりでなく、執行猶予制度本来の立法趣旨就中刑法が何故に執行猶予期間を一年以上としたかの理由を解しないものであつて、賛同できない。
刑法第二五条第二項の法意
刑法25条,刑法25条ノ21項,裁判所法11条
判旨
執行猶予判決の確定前に犯されたいわゆる余罪については、刑法25条2項の再度の執行猶予の要件を適用せず、同条1項の要件に従って再び執行猶予を言い渡すことができる。25条2項は、猶予期間内に更に罪を犯した場合の厳格な条件を定めたものであり、起訴手続上の都合等で別個に審判されるに過ぎない余罪には及ばない。
問題の所在(論点)
刑法25条1項1号にいう「刑に処せられた」の解釈、および新設された25条2項(再度の執行猶予)の規定が、執行猶予判決の確定前に犯されたいわゆる「余罪」に対しても適用されるか、それとも余罪については1項の要件が維持されるか。
規範
刑法25条2項は、執行猶予期間内に更に罪を犯したという情状が重い場合に対して、1項よりも厳格な条件(1年以下の懲役・禁錮、特に憫諒すべき情状、必要的保護観察)を課すものである。これに対し、第一の判決確定前の犯罪(余罪)については、期間内の再犯のような情状の悪化は認められず、これを別異に解すべき合理的理由はない。したがって、余罪につき刑の執行を猶予し得るかは、刑法25条1項の要件を満たすか否かによって決すべきである。
重要事実
被告人が、ある罪について執行猶予付きの確定裁判を受けた。しかし、その確定裁判より前に犯していた別個の罪(いわゆる余罪)が、後の手続で審判の対象となった。検察官は、新設された刑法25条2項(再度の執行猶予)の厳格な要件(1年以下の懲役・禁錮等)がこの余罪にも適用されるべきであると主張して上告した。
あてはめ
執行猶予期間中の再犯は、前刑の恩恵を無に帰すもので情状が重いが、余罪はたまたま起訴手続の都合で審判が遅れたに過ぎず、再犯と同列に扱うべき情状の差はないといえる。25条2項は、条件を緩和するものではなく「制限して厳格にした」規定であり、再犯者に限定して適用されるべきである。よって、余罪の審判においては依然として25条1項1号が適用され、3年以下の懲役等であれば情状により(2項の厳格な制約を受けずに)執行猶予を付し得ると解される。
結論
余罪については刑法25条2項ではなく、同条1項の要件に従って執行猶予の可否を判断すべきである。したがって、余罪につき1項に基づいて執行猶予を言い渡した原判決は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
執行猶予中の者に、その猶予期間「前」の犯罪(余罪)が発覚して追起訴された場合の処理に関する重要判例。25条2項(1年以下の懲役等の制約)を回避して、通常の25条1項(3年以下の懲役等)の枠組みで執行猶予を重ねて付ける(ダブル執行猶予)ことの可否を肯定する根拠として機能する。
事件番号: 昭和30(あ)4104 / 裁判年月日: 昭和31年11月22日 / 結論: 破棄自判
一 刑法第二五条第二項は、前に禁錮以上の刑に処せられたその執行を猶予せられた者に対して一年以下の懲役または禁錮の言渡をなす場合に再度の執行猶予の言渡をなすことができる趣旨である。 二 刑訴第四〇六条刑訴規則第二五七条によつて受理された事件についても、同法第四一一条を適用することができる。