刑法第二五条第一項によつて刑の執行を猶予された罪のいわゆる余罪について、さらに、同条項によつて執行猶予を言い渡すためには、両罪が法律上併合罪の関係にあれば足り、訴訟手続上または犯行時等の関係から、実際上同時に審判することが著しく困難若くは不可能であるかどうか、または同時に審判されたならば執行猶予を言い渡すことのできる情状があるかどうかということは、問題とならない。
刑法第二五条第一項によつて執行猶予を言い渡された罪のいわゆる余罪についてさらに同条項によつて執行猶予を言い渡す場合の条件
刑法25条,刑法45条,裁判所法11条
判旨
ある罪につき執行猶予付き判決が確定する前に犯された余罪については、刑法25条1項が適用され、同条2項の再度の執行猶予の厳格な要件(1年以下の懲役・禁錮かつ特に酌量すべき情状)は不要である。
問題の所在(論点)
刑の執行猶予判決が確定する前に犯されたいわゆる「余罪」について、刑法25条1項の適用があるか、それとも「再度の執行猶予」として同条2項の厳格な要件が適用されるか。
規範
刑法25条1項の「刑ニ処セラレタル」とは実刑を言い渡された場合を指し、執行猶予付きの判決は含まれない。したがって、ある罪(後罪)につき執行猶予付き判決が言い渡され、その裁判が確定する前に犯された他の罪(余罪)については、その余罪が以前に確定した別の執行猶予期間内に犯されたものでない限り、刑法25条1項により執行猶予を付すことができる。この場合、訴訟手続上の都合や同時審判の可能性等の如何を問わず、同条2項の適用はない。
重要事実
被告人Aは、昭和26年から29年にかけて横領等の罪を犯した。Aは昭和29年2月24日に別件の横領罪で懲役6月・執行猶予3年の判決を受け、同年3月11日に確定した。本件では、右判決確定前に犯された(一)ないし(四)の事実と、(五)ないし(七)の事実(一部は確定前、一部は確定後と推認されるが判決文上明記なし)が審理された。第一審は、(一)ないし(四)の余罪について刑法25条1項を適用して執行猶予を付し、保護観察には付さなかった。検察側は、これら余罪についても刑法25条2項を適用し、同法25条の2第1項後段により必要的に保護観察に付すべきであると主張して上告した。
あてはめ
刑法25条2項が執行猶予の条件を厳格化した趣旨は、猶予期間中に更に罪を犯した場合に情状が重い点にある。これに対し、裁判確定前の余罪は、たまたま別個に審理されるに過ぎず、猶予期間中の犯行のような情状の悪化は認められない。よって、確定した判決の執行猶予が25条1項によるものであれば、その確定前の余罪についても同様に25条1項の条件で判断すべきである。本件の(一)ないし(四)の事実は、別件判決の確定前に犯された余罪であるため、刑法25条1項が適用される。同条項に基づく執行猶予において保護観察を付すか否かは任意であり、付さなかった判断に違法はない。
結論
被告人の裁判確定前の余罪については、刑法25条1項により執行猶予を付すことができ、必要的に保護観察に付すべきとする刑法25条の2第1項後段の適用はない。
実務上の射程
併合罪の関係にある数罪が別々に起訴された場合、先に確定した判決が執行猶予であっても、その確定前の余罪には「初度の執行猶予」の規定が適用される。答案上、再度の執行猶予(25条2項)の要件を検討する際には、まず犯行時が前刑の「裁判確定後」か「確定前」かを峻別し、確定前であれば本判例を根拠に25条1項の充足性を論じる必要がある。
事件番号: 昭和29(あ)3204 / 裁判年月日: 昭和31年12月12日 / 結論: 棄却
昭和二七年九月着工、同年一二月完成するにいたつた自己の家屋の建築工事費を支払うため、前後一二回にわたり、その都度、公金をもつて支弁した事実があつても、最初から全部の横領を企図したものと認められないかぎり、横領罪は個々に成立し、併合罪と認めるべきである。