原判決は第一審判決をその科刑重きにすぎるとして破棄自判し、被告人の犯罪事実である第一審判決判示第一の各所為及び第三の所為につき、いずれも刑法第二五三条(第三の所為については更に同第六〇条をも適用)の業務上横領罪の規定を適用しているが、右第三の所為(註。業務上横領に加功した非業務者の加功行為)につき刑法二五三条を適用した点は、法令の適用を誤つたものであり、所論判例に違反していること所論の指摘するとおりである。しかし被告人にはこれと併合罪の関係にある右第一の業務上横領の多数の犯行もあり、原判決はこれら業務上横領のうち犯罪の最も重い罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内において量刑処断していることも原判文上明白であるから、右判例違反は判決に影響を及ぼさないから、判決破棄の理由とならない。
判例違反(法令の適用の誤り)が判決に影響しない事例。
刑訴法405条3号,刑訴法410条,刑法253条,刑法252条1項,刑法60条,刑法65条2項
判旨
非占有者が占有者と共謀して業務上横領罪を犯した場合、刑法65条2項により、非占有者には単純横領罪(同法252条)の刑を科すべきである。一部の法令適用に誤りがあっても、併合罪の関係にある他の重い罪の刑期の範囲内で処断されており、判決に影響を及ぼさない場合は、判決破棄の理由とならない。
問題の所在(論点)
業務上の占有者という身分を有しない者が、業務上の占有者と共謀して業務上横領を行った場合、非身分者に対して刑法253条の刑を科すことができるか(刑法65条2項の適用範囲)。また、一部の罪について法令適用に誤りがある場合、それが直ちに判決の破棄事由となるか。
規範
刑法65条の解釈において、同条1項は真正身分犯の共犯の成立を規定し、同条2項は不真正身分犯(加減身分犯)の共犯の刑の個別化を規定している。業務上占有者という身分を有しない者が、業務上占有者と共謀して業務上横領を行った場合、共犯全体としては業務上横領罪(253条)が成立するものの、非身分者に対しては、同条65条2項を適用し、身分のない場合に適用されるべき刑法252条(単純横領罪)の刑を科すべきである。
重要事実
被告人は、複数の業務上横領(第一の所為)に加え、第三者と共謀して業務上横領(第三の所為)を行った。第一審および原審は、この「第三の所為」についても、共謀共同正犯(刑法60条)として業務上横領罪の規定を適用して処断した。しかし、被告人が当該業務上の占有者という身分を有していたか否かの点において、法令適用の誤りが指摘された。また、被告人には他に多数の業務上横領罪が成立しており、それらは併合罪の関係にあった。
あてはめ
原判決が第三の所為につき被告人に刑法253条を適用した点は、非身分者に重い身分犯の刑を科した点で、刑法65条2項の解釈に反する法令適用の誤りである。しかし、被告人には他にも多数の業務上横領の犯行があり、これらは併合罪の関係にある。原判決は、これらの中で最も犯情の重い罪(第一の所為)の法定刑を基準に加重した刑期範囲内で量刑を行っている。したがって、一部の罪の条文適用に誤りがあったとしても、最終的な量刑の結論に影響を及ぼすものではない。
結論
非身分者による業務上横領への加担には、刑法65条2項により単純横領罪の刑を科すべきである。ただし、本件では他の併合罪との関係で判決の結果に影響を及ぼさないため、上告は棄却される。
実務上の射程
司法試験においては、刑法65条の論点(1項と2項の区別)における重要判例として位置づけられる。「共犯は1項で成立し、科刑は2項で個別化する」という判例理論を明示する際の根拠となる。また、刑事訴訟法上の「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」の判断枠組みを示す際にも参照しうる。
事件番号: 昭和30(あ)423 / 裁判年月日: 昭和30年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務横領罪において、身分なき共犯者が加功した場合、刑法65条の規定により共犯として成立するが、科刑については同条2項に基づき通常の横領罪(単純横領罪)の刑を科すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、身分関係を有しない立場で業務横領等の犯罪行為に加功したとして起訴された。第一審判決では業務横領罪…