業務上の占有者たる身分なき被告人が他人の業務上横領罪に共同正犯として加功した事実を認めながら刑法二五三条を適用処断したのは性質上判決に影響を及ぼすことの明らかな法律適用の誤りがあるものというべきこと論をまたない。
業務上横領罪の共犯ではあるが身分なき被告人に対し刑法第二五三条を適用したる違法と判決への影響
刑法65条,刑法252条,刑法253条,刑訴法380条
判旨
業務上の占有者でない者が業務上横領罪の共同正犯となる場合、刑法65条2項により科刑は単純横領罪の刑を基準とすべきであるが、不利益変更禁止の原則に反しない限り、控訴審は独自の裁量により第一審の宣告刑と同一の刑を言い渡すことができる。
問題の所在(論点)
身分なき者が業務上横領罪の共同正犯となる場合において、刑法65条2項により科刑の基準が単純横領罪に軽減されるとき、控訴審は第一審(不当に重い条文を適用)と同一の量刑を維持することができるか。刑事訴訟法402条の不利益変更禁止の原則との関係が問題となる。
規範
身分なき者が他人の業務上横領罪に共同正犯として加功した場合、科刑については刑法65条2項により通常の横領罪(同法252条)の刑を基準とすべきである。ただし、控訴審が不利益変更禁止(刑事訴訟法402条)に違反しない限度で、諸般の情状に照らし独自の見地から量刑する自由裁量を有するため、事実を単純横領罪と認定した上で第一審の宣告刑と同一の刑を言い渡すことは許容される。
重要事実
被告人は、業務上の占有者たる身分を有していなかったが、他人の業務上横領罪に共同正犯として加功した。第一審判決は、この事案に対し刑法253条(業務上横領罪)を適用し、懲役2年執行猶予2年の判決を下した。これに対し、原審(控訴審)は、身分なき被告人には刑法252条(単純横領罪)の刑を基準とすべきであるとして第一審判決を破棄したが、自判において第一審と同一の懲役2年執行猶予2年の刑を言い渡した。被告人側が、軽い罪の刑を基準とする以上は第一審より軽い刑を言い渡すべきであるとして上告した事案である。
あてはめ
身分なき共犯者に対する科刑基準が単純横領罪である以上、原審が第一審の法令適用(刑法253条の適用)を誤りとして破棄したことは相当である。しかし、控訴審は第一審判決よりも重い刑を科すことが禁じられているに過ぎず、その範囲内においては、記録上の諸般の情状を考慮して独自に量刑を決定する自由裁量を有する。本件において、原審が事実を単純横領罪として評価した上で、情状に鑑み第一審の宣告刑(懲役2年執行猶予2年)を維持することは、不利益変更には当たらず、裁量の範囲内であるといえる。
結論
控訴審は、第一審より軽い罪の刑を基準として量刑する場合であっても、第一審の宣告刑を超えない限り、独自の裁量によりこれと同一の刑を言い渡すことができる。したがって、原判決に違法はない。
実務上の射程
共犯と身分(刑法65条)に関する科刑上の処理と、刑事訴訟法上の不利益変更禁止の原則の限界を示す判例である。答案上は、65条2項により単純横領罪の刑を科すべきことを論じた後、具体的な量刑の決定においては裁判所の裁量が広く認められること、そして前審の宣告刑を上回らない限りは「不利益」には当たらないことを指摘する際に活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)423 / 裁判年月日: 昭和30年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務横領罪において、身分なき共犯者が加功した場合、刑法65条の規定により共犯として成立するが、科刑については同条2項に基づき通常の横領罪(単純横領罪)の刑を科すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、身分関係を有しない立場で業務横領等の犯罪行為に加功したとして起訴された。第一審判決では業務横領罪…