(昭和二八年法律第一九五号による改正前の)刑法第二五条第一号にいわゆる「前ニ」禁錮以上の刑に処せられたことなき者とは、現に審判すべき犯罪につき刑の言渡をする際に、その以前に他の罪につき確定判決により禁錮以上の刑に処せられたことのない者を指すのであつて、既に刑に処せられた罪が現に審判すべき犯罪の前に犯されたと後に犯されたとを問わない。
(昭和二八年法律第一九五号による改正前の)刑法第二五条第一号の「前ニ」の解釈
刑法25条
判旨
刑法25条1項1号にいう「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」とは、審判対象となる犯罪の判決言渡し時を基準として、それ以前に確定判決により禁錮以上の刑に処せられたことがない者を指す。当該前科に係る罪が、審判対象の罪の前に犯されたか後に犯されたかは問わない。
問題の所在(論点)
刑法25条1項1号の執行猶予の要件である「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」の判断基準時は、犯罪行為時か、それとも判決言渡し時か。
規範
刑法25条1項1号にいう「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」とは、現に審判すべき犯罪につき刑の言渡しをする際、その以前に他の罪につき確定判決により禁錮以上の刑に処せられたことのない者を指す。この「前に」という基準は、犯罪行為時ではなく、現に審判を受ける事件の判決言渡し時を標準として決定すべきである。
重要事実
被告人が本件犯罪(現に審判対象となっている罪)を犯した後、本件の判決言渡しより前に、別の罪について確定判決により禁錮以上の刑に処せられていた。弁護人は、刑法25条1項1号の「前に」とは「犯罪時」を基準とすべきであり、本件犯罪の後に確定した刑は執行猶予の欠格事由に当たらないと主張して上告した。
あてはめ
刑法25条1項1号の文言上、「前に」とは判決を言い渡す時点から遡って過去をみる趣旨と解するのが自然である。本件において、被告人は本件の言渡し時点ですでに他の罪について確定判決を受けている。この既判決に係る犯罪が、本件犯罪の前に犯されたか後に犯されたかは、文理上区別されていない。したがって、言渡し時を基準とする以上、被告人は「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」には該当しないと評価される。
結論
執行猶予の要件における前科の有無は、判決言渡し時を基準に判断される。したがって、本件被告人に執行猶予を付すことはできない。
実務上の射程
本判例は、執行猶予の欠格事由(1号・2号)の基準時を明確にしたものである。実務上、併合罪(刑法45条)の関係にない別個の事件が先行して確定した場合、その確定が審判中の事件の「前」になされたかどうかが執行猶予の可否を分ける。答案上は、文言解釈として「判決時」を基準とすることを明示し、時系列に沿って事実をあてはめる際に用いる。
事件番号: 昭和29(あ)2459 / 裁判年月日: 昭和31年5月30日 / 結論: 棄却
一 刑法第二五条第二項は、執行猶予の期間内さらに罪を犯した場合にその刑の執行猶予を言渡すときの条件のみを規定したものであつて、いわゆる余罪につき刑の執行猶予を言い渡す場合の条件までをも規定したものではない。 二 (裁判官斎藤悠輔の小数意見) 刑法二五条二項の一年以下の懲役又は禁錮の条件はいわゆる余罪に対すると猶予の期間…