物価庁の告示が業者の統制額を定めた場合には業者ではない者でも業者と同一の取引をするときは業者に対する統制額が適用されるものであるから統制額違反事件においては必ずしも業者であるか否かを確定判示しなくとも差支えないものである。
業者販売価格の統制額違反の罪につき業者であるか否かを判示するとの要否
物価統制令3条,刑訴法335条1項
判旨
物価統制令違反の成立後、価格指定の告示が将来に向かって廃止されても刑罰は廃止されない。また、業者に対する統制額は、業者でない者が同一の取引を行う場合にも適用されるため、判決において被告人が業者であるか否かを確定する必要はない。
問題の所在(論点)
1. 犯罪成立後に価格指定の告示が廃止された場合、刑訴法411条5号(刑の廃止)に該当するか。2. 業者に対する統制額が定められている場合、被告人が業者であることを確定判示する必要があるか。
規範
1. 法令により特定の行為が禁止され罰則が設けられている場合、その後に事実上の基礎となる告示等が廃止されても、別段の定めがない限り、過去の違反行為に対する刑罰権は消滅しない(いわゆる限時法の理論)。2. 行政法規の適用において、特定の主体(業者)を対象とする価格統制が定められている場合、その規制の趣旨が取引行為自体の適正化にあるときは、非業者が同一の取引を行った際にも当該統制額が適用される。
重要事実
被告人が物価統制令に違反する行為を行ったとして起訴された事案。犯罪成立後、当該統制価格を定めていた物価庁の告示が将来に向かって廃止された。また、被告人が「業者」に該当するかどうかが明確に判示されていなかったため、弁護人は刑罰の廃止(刑訴法405条、411条違反)および理由不備を理由に上告した。
あてはめ
1. 物価統制令違反の犯罪が成立した後に価格指定の告示が廃止されたとしても、それは将来に向かっての変更に過ぎず、過去の違反行為に対する処罰を否定するものではない。2. 物価庁の告示が業者の統制額を定めた場合、その規制は取引の経済的実態を統制するものである。したがって、業者でない者であっても業者と同一の取引を行う以上、当該統制額の適用を受ける。ゆえに、被告人が業者であるか否かを厳格に確定せずとも、統制額違反の成否に影響はない。
結論
被告人の上告を棄却する。告示の廃止は刑の廃止には当たらず、また被告人が業者であるか否かを確定しなかった原判決に理由不備の違法はない。
実務上の射程
法令の変更(告示の改廃)が「刑の廃止」にあたるか否かという、限時法・法律状態の変化に関する議論で引用される。本判例は、いわゆる「事実上の変更」に過ぎない場合は刑の廃止にあたらないとする判例理論(大判昭16.12.2等)の流れを汲むものである。また、行政法規の主体要素の解釈において、実質的な取引態様を重視する姿勢を示している。
事件番号: 昭和25(あ)2911 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の犯罪成立後、価格指定の物価庁告示が廃止されたとしても、それは刑罰の廃止(刑訴法411条5号等)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が物価統制令に違反する行為を行った後、当該行為の処罰の基準となっていた価格指定の物価庁告示が廃止された。被告人側は、この告示の廃止が刑罰の廃止に当…