判旨
多数回の窃盗を繰り返すという事実のみをもって、直ちに刑法上の責任能力に欠ける精神異常者であると断定することはできない。
問題の所在(論点)
窃盗を100回にわたり繰り返したという事実をもって、刑法39条にいう精神異常者(責任能力を欠く状態)であると認められるか。
規範
被告人が精神異常者(責任無能力者または限定責任能力者)に該当するか否かは、単に犯行の回数や態様といった外形的事実のみによって判断されるべきではなく、その前提となる精神障害の存在や、それによる行動制御能力・事理弁識能力の有無を具体的に検討すべきである。
重要事実
被告人は、手当たり次第に物を盗むという態様の窃盗を合計100回にわたって繰り返した。弁護人は、このような異常な犯行回数及び態様に照らせば、被告人が明らかに精神異常者であることは自明であると主張して上告した。
あてはめ
本件において被告人は百回にわたり手当たり次第に窃盗を行っているが、かかる犯行の反復は、必ずしも精神障害に由来するものとは限らない。単に多数回の犯行を重ねているという外形的な事実のみを捉えて精神異常と断定する弁護人の主張は、医学的・心理学的な根拠を欠く独自の見解にすぎず、刑法上の責任能力を否定するに足りる根拠とは認められない。
結論
手当たり次第に百回の窃盗を繰り返したからといって精神異常者とはいえず、被告人の責任能力を認めた原判断に誤りはない。
実務上の射程
常習的な犯罪行為や異常な犯行回数のみを根拠として責任能力の減免を主張する弁護側の論理を排斥した事例である。実務上、責任能力の有無を争う際には、犯行回数という結果事実だけでなく、被告人の既往歴、犯行前後の言動、動機の有無といった具体的要素に基づき、精神鑑定等の医学的根拠を伴う立証が必要であることを示唆している。
事件番号: 昭和49(あ)2523 / 裁判年月日: 昭和50年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】常習累犯窃盗罪に対し、刑法所定の累犯加重を重ねて適用することは、同一の累犯事実を二重に評価するものではなく、憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は常習累犯窃盗の罪に問われた。弁護側は、同罪において既に「累犯」であることが考慮され加重処罰されているにもかかわらず、さらに刑法の累犯規定を適用し…