新刑訴における控訴審は事後審であるから、第一審判決の事実誤認の主張については、原則として訴訟記録及び第一審裁判所において取り調べた証拠に現われている事実を取り調べるを以て足り(刑訴三八二条参照)刑訴三九三条一項但書の場合の外新らたに事実の取り調べをすることを要するものではない。されば、原審が所論証人訊問申請を全部却下してこれが取調をしなかつたからといつて間弁護人主張のごとく弁護人の弁護権を不当に弾圧し被告人に防禦の余地を与えなかつた違法があるといえない。
第一審判決の事実誤認の主張に対する証拠調の範囲と右主張に基く証人訊問申請を却下したことは弁護権を不当に弾圧したといえるか
刑訴法382条,刑訴法393条1項,刑訴法411条3号
判旨
控訴審は事後審であるため、第一審判決の事実誤認の有無を判断するにあたって、原則として訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠を調査すれば足りる。また、裁判所には当事者が申請したすべての証人を尋問する義務はなく、証人尋問の申請を却下しても憲法37条2項に反しない。
問題の所在(論点)
控訴審において事実誤認の主張がある場合、裁判所は新たに証拠調べを行う義務を負うか。また、被告人が申請した証人尋問の申請を却下することは、弁護権の侵害や憲法37条2項違反となるか。
規範
現行の刑事訴訟法における控訴審の性質は事後審である。したがって、事実誤認の主張に対する審査は、原則として訴訟記録及び第一審裁判所において取り調べた証拠に現れている事実を取り調べることで足りる。刑事訴訟法393条1項但書の規定に該当する場合を除き、新たに事実の取調べを行う必要はない。また、憲法37条2項は、裁判所に対し、当事者が申請したすべての証人を尋問すべき義務を課しているものではない。
重要事実
被告人が第一審判決に事実誤認があるとして控訴した事案において、控訴審(原審)が弁護人の行った証人尋問申請をすべて却下し、証拠調べを行わずに判決を下した。これに対し、弁護人が「弁護権を不当に弾圧し防御の余地を与えなかった違法がある」「憲法37条2項の証人尋問権を保障した規定に反する」と主張して上告したものである。
あてはめ
控訴審は、第一審判決の当否を事後的に審査する「事後審」としての性格を有している。そのため、刑事訴訟法382条に基づく事実誤認の有無は、第一審までに収集された証拠資料を中心に判断されるべきであり、必ずしも新たな証拠調べを要しない。本件において原審が証人尋問申請を却下したことは、事後審の仕組みに照らして正当な裁量の範囲内であり、被告人の防御権を不当に制限したものとはいえない。さらに、憲法37条2項は無制限に証人の喚問を保障するものではないとする確立した判例に照らせば、申請の却下を違憲と評価することもできない。
結論
控訴審が証人尋問申請を却下したことは適法であり、憲法37条2項にも違反しない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
控訴審の事後審構造を明確にした初期の重要判例である。答案上は、控訴審における証拠調べの要否や、事実誤認の審査のあり方(事後審査の範囲)を論ずる際の理論的根拠として活用する。特に、職権証拠調べ(刑訴法393条1項)や事実取調べの裁量を論じる局面で、事後審の性質を導くキーワードとして「訴訟記録及び第一審において取り調べた証拠」という文言を引用するのが効果的である。
事件番号: 昭和29(あ)2808 / 裁判年月日: 昭和29年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審において証人として尋問済みの者について、控訴審が重ねて尋問する必要がないと認めて証人採用の請求を却下することは、憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人側は、控訴審において特定の人物(A)を証人として申請したが、原審(控訴審)はこの申請を却下した。当該人物は既に第一審において証…