論旨第一點の前提とするところは、要するに第一審判決が被告人に對し累犯加重の法條を適用しないのは違法であるというに歸する。しかし、第一審判決は被告人に前科のあることを判示してはいない。しかるに上訴審においては第一審判決の認めていない前科のあることを主張して累犯加重をしないことを非難するのは、新らたな事實を以て、第一審判決を被告人に不利益に變更することを求めるものといわなければならない。されば、論旨第一點はすでにその前提において被告人のための上訴理由として採ることができない。
第一審判決が認めていないにかゝわらず前科のあることを主張して累犯加重しないことを理由とする上告と被告人に不利益な上告
刑訴法414條,刑訴法386條1項3號
判旨
被告人の利益のためにされた上訴において、第一審判決が認定していない前科の存在を主張し、累犯加重がなされなかったことを非難することは、被告人に不利益な変更を求めるものに当たり、上訴理由として認められない。
問題の所在(論点)
被告人の利益のために申し立てられた上訴において、第一審が認定していない前科の不適用(累犯加重の欠如)を「被告人に不利益な方向」で主張することが、適法な上訴理由として認められるか。
規範
被告人の利益のためにされた上訴(刑訴法351条1項参照)において、第一審判決が認定していない不利な事実を新たに主張し、第一審判決を被告人に不利益に変更することを求める主張は、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条参照)の趣旨に照らし、適法な上訴理由とはなり得ない。
重要事実
被告人が第一審で判決を受けた際、判決文には被告人に前科がある事実は判示されていなかった。しかし、被告人側(弁護人)は上告審において、第一審が被告人の前科に基づく累犯加重(刑法56条、57条)の法条を適用しなかったのは違法であると主張し、原判決の破棄を求めた。
あてはめ
第一審判決は被告人に前科があることを判示していない。これに対し、上告審で新たに前科の存在を主張し、累犯加重がなされなかったことを非難することは、実質的に「新たな事実を以て第一審判決を被告人に不利益に変更すること」を求めるものである。このような主張は、上訴制度が本来想定する「被告人の利益保護」に逆行するものであり、前提において被告人のための上訴理由として採用できない。
結論
被告人に不利益な法条適用の漏れを指摘する主張は、被告人のための上訴理由には当たらないため、本件上告は棄却される。
実務上の射程
被告人側から上訴した場合に、第一審の事実認定や量刑判断が「被告人に甘すぎる」という方向で争うことは、上訴の利益を欠き許されないことを示す。実務上、弁護人が刑の加重を求めるような矛盾した主張(例えば特定の減軽規定の不適用ではなく、加重規定の不適用をあえて争う等)を排除する論理として機能する。
事件番号: 昭和25(あ)518 / 裁判年月日: 昭和25年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において主張されず、その判断を経ていない事項については、上告審において原裁判の違法をいうための適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人側は、上告審において新たな事由(上告趣意)を主張したが、その内容は控訴審(原裁判所)においては一切主張されておらず、したがって控訴審の判断も経て…