論旨は原判決をもつて起訴のない事実につき被告人を有罪としたものと前提して原判決は大審院の判例に反するものというのであるが、論旨には原判決の反すると主張する大審院の判例を具体的に挙示していないのであるから、論旨は刑訴規則第二五三条の規定に違反する不適法の上告申立であるといわなければならない。
具体的に挙示しない判例違反の主張の適否
刑訴法405条3号,刑訴規則253条
判旨
起訴状に個人名と職業が付記されている場合に、判決において当該個人を法人の代表者として認定しても、それが同一の行為者たる一個人を指すものである限り、不告不理の原則に反しない。
問題の所在(論点)
起訴状に「工事請負業A」と記載されているのに対し、判決が「株式会社B組の代表者たるA」として有罪を認定することが、不告不理の原則に反するか。
規範
不告不理の原則(刑事訴訟法378条3号参照)に照らし、起訴状に記載された被告人の表示と判決で認定された被告人の属性に相違があっても、それが実質的に同一の行為者たる個人を指し、審判対象の同一性が維持されている場合には、起訴のない事実について審理・裁判した違法(不告不理原則違反)は認められない。
重要事実
被告人Aについて、検察官は「工事請負業A」として起訴した。これに対し、原判決(及び一審判決)では、Aを「株式会社B組の代表者たるA」と説示した上で、工事施行の行為者として有罪を宣告した。弁護人は、起訴状の記載と異なる立場での認定は、起訴のない事実を有罪としたものであり、不告不理の原則に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和25(あ)723 / 裁判年月日: 昭和25年12月28日 / 結論: 棄却
一 衣料品配給規則第五条違反の罪は、衣料品を所定の割当公文書と引換えないで譲渡する罪であるから、その譲渡行為がある毎に犯罪が成立するものといわなければならない。 二 裁判所構成法による控訴院が、同戦時特例第五条により、上告審として為した判決は、刑訴法第四〇五条第三号にいわゆる判例に当らない。 三 判例違反の主張をするの…
あてはめ
起訴状の「工事請負業A」という記載も、原判決の「株式会社B組の代表者たるA」という説示も、いずれも工事施行の行為者たるAという一個人を指すものである。これは法人たる株式会社B組を被告人として起訴する趣旨ではなく、被告人の属性表示の差異にすぎない。したがって、審判の対象は依然として個人としてのAであり、起訴事実の範囲を逸脱したものではないといえる。
結論
工事施行者として被告人Aを有罪とした原判決に、不告不理の原則に反する違法は存しない。
実務上の射程
被告人の表示や肩書きが公訴提起時と判決時で異なる場合であっても、被告人の同一性が認められる限り不告不理原則違反にはならない。答案上は、被告人の特定や審判対象の画定において、表示の些末な違いよりも実質的な行為者の同一性を重視する論理として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)2396 / 裁判年月日: 昭和27年2月26日 / 結論: 棄却
一 本件については、旧刑訴事件の上訴審における審判の特例に関する規則八条が適用されるから、控訴審判決が、証拠により罪となるべき事実を認めた理由を説明するには、証拠の標目を掲げれば足りるのである。(同規則の違法、無効でないことは、昭和二四年(れ)第二一二七号同二五年一〇月二五日大法廷判決、集四巻一〇号二一五一頁の趣旨に徴…
事件番号: 昭和26(れ)1335 / 裁判年月日: 昭和27年3月18日 / 結論: 破棄差戻
指定生産資材在庫調整規則第三条に定められた「指定生産資材を所有する者」が法人である場合には、同条の「報告書を提出しなければならない」者とは、法人の代表者のみならず、当該資材の調査に関する事務を統括する地位にある「報告担当者」をも指称すると解すべきである。
事件番号: 昭和25(れ)1884 / 裁判年月日: 昭和26年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】指定生産資材割当規則と指定繊維資材配給規則は、後者が前者を補完する関係にあり、一方の適用が他方を排除するものではない。また、需要者の地位にある者が割当証明書と引換えずに資材を売買した場合は、割当規則違反が成立する。 第1 事案の概要:被告人は絹織物等の製造業者であり、指定生産資材である生糸等の需要…
事件番号: 昭和25(あ)1520 / 裁判年月日: 昭和26年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】肥料配給統制規則等に基づき処罰の対象となる行為は、割当公文書の提示なく硫安を譲渡する現実の行為(引渡し)を指し、その前提となる売買契約そのものではない。 第1 事案の概要:被告人らは、肥料配給統制規則等の規定に反し、割当公文書の提示を受けることなく、硫安を他者に譲渡した。一審判決はこの譲渡行為を処…