論旨引用の大審院大正五年(れ)第二八七七号同六年二月六日宣告の判決は執達吏が強制執行のため差押をなし封印を施した穀類の一部を窃取し封印を破棄した事案に関するものであるが、別段刑法九六条の罪の成立を否定したものではなく、却つて同罪と窃盗罪の両罪の成立を認めた趣旨である。そして、原判決も封印又は差押の標示された物自体を損壊することによつて他人の権利を害し同時に封印又は差押の標示を無効ならしめた場合には刑法九六条の罪と同法二六二条の罪の両罪が成立する旨判決していることは判文上極めて明かであつて、前記大審院の判決と何ら相牴触するものではない。
封印又は差押の標示された物自体を損壊する場合と刑法第九六条及び第二六二条の両罪の成立
刑法96条,刑法262条
判旨
封印又は差押の標示がされた物自体を損壊して他人の権利を害し、同時に封印等の効力を失わせた場合、封印等破棄罪(刑法96条)と自己の物の損壊等罪(同262条)が成立し、両者は観念的競合の関係に立つ。
問題の所在(論点)
差押の標示等がなされた物自体を損壊し、その効力を失わせた場合に、刑法96条の封印等破棄罪に加えて、刑法262条(自己の物の損壊等)が併せて成立するか、あるいは封印等破棄罪のみが成立するのか。
規範
公務員が施した封印や差押の標示自体を無効にする行為が、同時にその標示がなされた物自体の損壊等を伴い、かつ当該行為が他人の権利を害するものである場合には、封印等破棄罪(刑法96条)に加えて、自己の物の損壊等罪(同262条)が成立する。
重要事実
被告人が、執達吏による強制執行として差押がなされ、封印を施されていた穀類の一部を窃取した際、同時にその封印を破棄した事案である。原審は、封印がなされた物自体を損壊することで他人の権利を害し、同時に封印の効力を無効にしたとして、刑法96条と262条の罪の成立を認めた。これに対し、弁護人は過去の大審院判例に違反するとして上告した。
あてはめ
本件では、差押の標示がなされた穀類という「物」自体を損壊(窃取による占有侵害を含む)する行為が行われている。この行為は、強制執行という公の効力を無効にする点において封印等破棄罪の構成要件に該当する。また、当該物件が自己の所有物であったとしても、差押という法的制限を受けて他人の権利(債権者の利益)の目的となっている以上、これを損壊・隠匿等する行為は自己の物の損壊等罪の構成要件にも該当する。一つの行為がこれら複数の法益を同時に侵害している以上、両罪の成立を認めるべきである。
結論
封印等破棄罪と自己の物の損壊等罪の両罪が成立する。したがって、両罪を認めた原判決に判例違反はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
強制執行手続を妨害する行為が、客体である物自体の損壊を伴う場合の罪数関係を示す。実務上は、差押物件が自己の所有物である場合には刑法262条(115条の準用)が適用され、他人の所有物である場合には通常の器物損壊罪等との関係が問題となるが、いずれも刑法96条とは観念的競合として処理される。答案上は、公的法益(執行の効力)と私的法益(権利者の利益)の双方を侵害している点を強調して罪数論を展開する際に活用できる。
事件番号: 昭和38(あ)1604 / 裁判年月日: 昭和39年8月13日 / 結論: 棄却
一 被告人の所為をもつて刑法第九六条所定の「公務員の施した差押の標示を無効ならしめた罪」にあたるとした原判断は正当である。 二 (原判決の判断の要旨)執行吏が仮処分の執行として物の占有を自己に移し、その旨の標示をした上、現状不変更を条件として使用を許したときは、仮処分の執行を受けたものは、これを使用するについて、破損箇…