判旨
判決主文に没収対象物の名称の一部(「塩酸」の文字)に遺脱があっても、判決事実や証拠等との対照により、没収の対象が何であるか客観的に明白であれば、判決を破棄すべき違法とはならない。
問題の所在(論点)
判決主文における没収対象物の名称の記載に一部遺脱がある場合、刑訴法411条の職権破棄事由に当たるような重大な違法となるか。
規範
判決書の記載に一部誤脱があったとしても、判決の主文、判示事実、および挙示された証拠(差押調書、鑑定書等)を総合的に対照し、その記載が何を指しているかが客観的に明瞭であると認められる場合には、実質的な違法は存在しないと解する。
重要事実
被告人が塩酸モルヒネ等を所持していた事案において、第一審判決の主文は、没収対象物について「ヂアセチル、モルヒネ」と記載し、本来記載すべき「塩酸」の二字を遺脱していた。弁護人は、この記載の不備が訴訟法違反であるとして上告した。
あてはめ
本件では主文に「塩酸」の記載が欠けているものの、主文の文言全体、判示された所持事実、および証拠として挙げられた押収モルヒネ、差押調書、鑑定書等を対照すれば、没収の対象が「塩酸モルヒネ0.005グラムから試験用を差し引いた残量」であることは客観的に明瞭である。したがって、被告人の防御や刑の執行に支障を来すような実質的な不備はなく、著しく正義に反するとはいえない。
結論
主文の記載に一部遺脱があっても、他の記載や証拠から対象が特定可能で明瞭である以上、破棄すべき違法は認められない。
実務上の射程
判決書の誤記や遺脱に関する救済の限界を示す。実務上は、主文のみならず判決書全体を証拠と照らし合わせて合理的に解釈することで、軽微な形式的不備は維持される傾向にあることを示唆する。
事件番号: 昭和27(あ)2982 / 裁判年月日: 昭和28年6月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】極めて微量な事実の誤認があったとしても、それが判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められない場合には、上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人が塩酸ヂアセチルモルヒネ4包(計0.95g)を犯罪組成物件として所持等していた事案において、原判決は0.01gの1包を当該4包の残量の一部…