判旨
被告人の自白を補強する証拠は、必ずしも自白と全く同一の用語を用いる必要はなく、その内容が実質的に自白に係る犯罪事実を指していると認められるものであれば、自白の補強証拠として許容される。
問題の所在(論点)
自白において特定された薬物の名称と、補強証拠とされる書面上の呼称が異なる場合に、憲法38条3項(原文は27条3項と誤記)にいう自白の補強証拠として認められるか。
規範
憲法38条3項及び刑事訴訟法319条2項が定める自白の補強証拠(補強法則)において、自白以外の証拠が自白内容と実質的に同一の対象を指していることが記録上明らかであれば、呼称の差異にかかわらず補強証拠としての適格性を有する。
重要事実
被告人Cは、塩酸モルヒネ及び塩酸ヂアセチルモルヒネの売渡しを行ったとして起訴された。第一審判決は、Cの自白を補強する証拠として、共犯者らが作成した買受上申書を採用した。しかし、当該上申書には「ヘロイン」又は「塩酸ヘロイン」との名称が記載されており、起訴状等の「塩酸ヂアセチルモルヒネ」という名称とは一致していなかった。弁護人は、呼称の不一致から補強証拠にならないと主張した。
あてはめ
本件における「ヘロイン」や「塩酸ヘロイン」という呼称が、本件の「塩酸ヂアセチルモルヒネ」を指すことは記録上疑いがない。俗称か正式名称かという呼称の点は重要ではなく、証拠が実質的に自白に係る犯罪事実(薬物の譲渡)を指し示していると認められる以上、被告人の自白を優に補強するに足りる。したがって、証拠能力や証明力の判断において違憲の主張はその前提を欠く。
結論
自白と補強証拠の間で対象物の呼称が異なっていても、実質的に同一の物を指していると認められる以上、補強法則に違反しない。
実務上の射程
事件番号: 昭和28(あ)4683 / 裁判年月日: 昭和30年9月13日 / 結論: 棄却
通称「ヘロイン」が「塩酸ヂアセチルモルヒネ」を指すものであることについては、裁判所に顕著であつて、必ずしも証拠による認定を要しない。
自白の補強証拠において、自白内容との完全な文言的一致までは不要であることを示した事例である。答案上は、補強証拠の証拠適格や証明力の有無を検討する際、些末な表現の差異が実質的な事実認定を妨げないことの根拠として利用できる。
事件番号: 昭和26(あ)1668 / 裁判年月日: 昭和28年3月24日 / 結論: 棄却
本件第一審判決が証拠として採用した検察官に対する被告人B及び同Cの供述調書中の記載を調べてみると被告人両名は各々所論麻薬を譲渡した事実を自白している。第一審判決はこれに加えるに、相被告人の検察官に対する供述調書中の記載等を補強証拠として採用し、これ等を綜合して判示の犯罪事実を認定したものである。このような場合には第一審…