通称「ヘロイン」が「塩酸ヂアセチルモルヒネ」を指すものであることについては、裁判所に顕著であつて、必ずしも証拠による認定を要しない。
通称「ヘロイン」が「塩酸ヂアセチルモルヒネ」であることの証拠による認定の要否
麻薬取締法(昭和27年法律152号による改正前のもの)4条3号,麻薬取締法(昭和27年法律152号による改正前のもの)57条,刑訴法317条,刑訴法335条1項
判旨
被告人の自白以外に、通称「ヘロイン」が「塩酸ヂアセチルモルヒネ」を指すことについての証拠がない場合でも、当該事実が裁判所に顕著であるときは、証拠による認定を要せず、憲法38条3項(自白の補強証拠)に違反しない。
問題の所在(論点)
通称(ヘロイン)が法律上の特定の規制薬物(塩酸ヂアセチルモルヒネ)を指すという事実について、自白以外の補強証拠が必要か。また、かかる事実を裁判所に顕著な事実として扱うことができるか。
規範
憲法38条3項及び刑事訴訟法319条2項が求める補強証拠は、自白にかかる事実の真実性を保障するに足りるものであれば足りる。また、特定の通称が特定の化学物質や法律上の品名を指すという事実は、それが裁判所に顕著な事実である場合には、必ずしも証拠による認定を要しない。
重要事実
被告人が、通称「ヘロイン」または「ペー」と呼ばれる麻薬を譲り渡し、または譲り受けた事実について起訴された。第一審において被告人は、当該麻薬が法律上の「塩酸ヂアセチルモルヒネ」であることを自認したが、弁護人は、その化学的名称の同一性(ヘロイン=塩酸ヂアセチルモルヒネ)を裏付ける補強証拠が欠けており、自白のみによる有罪認定として違憲であると主張した。
あてはめ
第一審判決は、被告人の自白以外にも多くの補強証拠を挙げて、ヘロインの取引事実を認定している。被告人の自白とこれらの補強証拠を総合すれば、被告人が麻薬たるヘロインを取引した事実は十分に認められる。また、「ヘロイン」が「塩酸ヂアセチルモルヒネ」を指すことは、裁判所に顕著な事実といえるため、証拠(補強証拠)を要せずしてこれを前提とすることが許容される。したがって、自白を唯一の証拠として有罪としたものではない。
結論
通称と物質名の同一性が裁判所に顕著である場合、当該点について個別の補強証拠は不要であり、憲法38条3項に違反しない。
実務上の射程
自白の補強証拠の要否および範囲に関する議論において、専門用語や通称の意義など「裁判所に顕著な事実」については証拠不要説を採る際に応用できる。実務上は、犯罪構成要件の核心部分については補強証拠が必要だが、名称の同一性のような前提事実には裁判上の顕著性を認める余地があることを示している。
事件番号: 昭和26(あ)2403 / 裁判年月日: 昭和28年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白を補強する証拠は、必ずしも自白と全く同一の用語を用いる必要はなく、その内容が実質的に自白に係る犯罪事実を指していると認められるものであれば、自白の補強証拠として許容される。 第1 事案の概要:被告人Cは、塩酸モルヒネ及び塩酸ヂアセチルモルヒネの売渡しを行ったとして起訴された。第一審判決…