判旨
憲法38条3項の補強証拠は、犯罪事実の全部にわたる必要はなく、自白と相まって犯罪事実の全部を認定できる程度で足りる。また、憲法36条の「残虐な刑罰」とは刑罰そのものが人道上残酷なものを指し、法定刑の範囲内での量刑の不当はこれに含まれない。
問題の所在(論点)
1. 憲法38条3項に基づき、自白を補強する証拠は犯罪事実のどの範囲まで必要か。2. 憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」の意義および、量刑の不当がこれに含まれるか。
規範
憲法38条3項(補強法則)において、自白を補強する証拠は、犯罪事実の全部を直接証明する必要はない。自白の真実性が保障され、当該証拠と自白とが相まって犯罪事実の全部を認定できれば足りる。また、憲法36条が禁ずる「残虐な刑罰」とは、刑罰の種類そのものが人道上残酷と認められるものを指し、量刑が重すぎるという不当性はこれに当たらない。
重要事実
被告人Aは、相被告人Bに対して塩酸モルヒネおよび燐酸コデインを譲渡した罪に問われた。Aは当該譲渡の事実について自白したが、弁護人は補強証拠の不足を理由に憲法38条3項違反を主張した。また、科された刑罰が重すぎるとして憲法36条違反も併せて主張した。第一審において、Aは供述調書の証拠採用に同意していたが、上告審に至り供述の任意性に疑義を呈する新たな事実主張を行った。
あてはめ
1. 被告人AがBに譲渡した物件が特定の薬物である旨の自白については、第一審が提示した他の証拠(爾余の証拠)により、その真実性が十分に保障されている。したがって、自白と補強証拠を総合して犯罪事実を認定することが可能である。2. 弁護人が主張する「刑の重さ」は法定刑の選択や量刑の不当を指すものであり、刑罰の性質そのものが非人道的であることを意味する「残虐な刑罰」には該当しない。3. 供述調書の任意性については、第一審で同意があり、控訴審でも争われていないため、上告審で新たに主張することは適法な上告理由にならない。
結論
自白の補強証拠は実質的な真実性の保障があれば足り、犯罪事実の全部を網羅する必要はない。また量刑の不当は「残虐な刑罰」に当たらない。したがって、被告人らの各上告を棄却する。
事件番号: 昭和28(あ)4683 / 裁判年月日: 昭和30年9月13日 / 結論: 棄却
通称「ヘロイン」が「塩酸ヂアセチルモルヒネ」を指すものであることについては、裁判所に顕著であつて、必ずしも証拠による認定を要しない。
実務上の射程
補強法則については「実質説(真実性保障説)」に立つことを改めて示した判例である。答案上では、補強証拠の必要範囲について、罪体(客観的構成要件該当事実)の重要部分の真実性を担保できる程度であれば足りる旨を論じる際に引用する。また、刑罰の合憲性判断においては、残虐性の定義を刑罰の種類そのものに限定する解釈の根拠となる。
事件番号: 昭和26(あ)3200 / 裁判年月日: 昭和28年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白以外に、第一審判決が挙示する他の証拠を総合して犯罪事実が認定できる場合には、憲法38条3項の自白のみによる有罪判決の禁止には抵触しない。 第1 事案の概要:被告人が自白している事件において、第一審判決は犯罪事実の認定にあたり、被告人の自白だけでなく、複数の証拠を挙示し、それらを総合して…