判旨
判示された一個の犯罪事実に対し、あたかも二個の犯罪事実があるかのように錯覚して法律を適用する擬律錯誤は、判決に影響を及ぼすべき違法であり、破棄事由となる。
問題の所在(論点)
一個の犯罪事実に対して複数の罪があるものと誤認して法律を適用する「擬律錯誤」がある場合、上告審において原判決を破棄すべきか。
規範
認定された一個の犯罪事実に対して法律を適用する際、複数の罪が存在するかのように誤認して重畳的に処断することは、罪数判断及び法律適用の誤り(擬律錯誤)にあたる。このような誤りが判決の結論に影響を及ぼし、原判決を維持することが著しく正義に反すると認められる場合には、刑訴法411条に基づき判決を破棄すべきである。
重要事実
被告人は麻薬取扱者ではないにもかかわらず、共犯者と共謀の上、昭和24年7月26日頃に麻薬である燐酸コデイン約1kgを所持した。第一審判決はこの「麻薬所持」という一個の事実を認定し、原判決もこれを審判対象とした。しかし、原審は法律の適用にあたり、この一個の事実に対してあたかも第一・第二の二個の犯罪事実があるかのように誤認して法律を適用し、被告人を処断した。
あてはめ
本件で認定された事実は、特定の場所における一定量の麻薬所持という「一個の事実」であることが記録上極めて明白である。それにもかかわらず、原審は判決においてあたかも二個の犯罪事実が併存するかのように錯覚して法律を適用している。これは実体法上の罪数評価を誤った擬律錯誤であり、適法な上告理由(憲法違反等)には直接当たらないものの、判決に影響を及ぼすべき重大な違法である。このまま原判決を維持することは著しく正義に反するといえる。
結論
原判決中、被告人に関する有罪部分を破棄する。認定事実に照らし、麻薬取締法及び刑法60条を適用して、被告人を懲役1年に処する。
実務上の射程
罪数判断を誤り、本来一個の罪であるものを数罪として処断する「擬律錯誤」が判決の破棄事由となることを示した事例。答案上は、罪数論(併合罪か包括一罪か等)の論証において、正当な法的評価を欠くことが判決に影響を及ぼす違法となる根拠として参照し得る。
事件番号: 昭和28(あ)3213 / 裁判年月日: 昭和30年8月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】併合罪の関係にある複数の行為に対し、判決の法令適用欄において刑法47条等の条文を複数回掲記することは、併合罪の加重を繰り返す擬律錯誤ではなく、全行為につき一括して併合罪の規定を適用した趣旨と解するのが相当である。 第1 事案の概要:被告人の3つの行為が併合罪の関係にあり、第一審判決はその法令適用の…