判旨
被告人が公判手続中に心神喪失の状態にあったと認められない場合には、裁判所が公判手続を停止することなく審判を進めても、刑事訴訟法314条1項に違反せず適法である。
問題の所在(論点)
被告人が公判手続中に心神喪失の状態にあったといえるか。また、その状態にない場合に公判手続を停止しなかった裁判所の措置に違法があるか(刑事訴訟法314条1項の停止事由の成否)。
規範
被告人が心神喪失の状態にあるときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定をもって、その状態の続く間、公判手続を停止しなければならない(刑事訴訟法314条1項)。この停止事由の有無については、記録上の証拠や手続の経過に照らして判断される。
重要事実
被告人は犯行当時、心神耗弱の状態にあったと原判決で認定された。弁護人は、被告人が犯行当時のみならず原審の公判手続中においても心神喪失の状態にあったと主張し、公判手続を停止せずに審判を継続した原審の判断には憲法違反および訴訟手続の違背があると主張して上告した。
あてはめ
記録を精査しても、被告人が原審の公判手続中に心神喪失の状態にあった事実は認められない。また、原審の弁護人も、原審の手続において被告人が心神喪失の状態にある旨を主張した形跡は存在しない。したがって、被告人が心神喪失状態にあることを前提とする公判手続の停止事由は認められない。
結論
被告人が公判手続中に心神喪失の状態にあったとは認められないため、原審が公判手続を停止せずに審理を進めたことに違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
公判停止の要件となる「心神喪失」の存否について、裁判所の判断は記録に基づく事実認定に従う。被告人側が公判段階で特段の主張をしておらず、記録上もその事実が認められない場合には、314条1項違反の訴えは排斥される。実務上は、弁護人が公判手続中に心神喪失を疑う事情を早期に主張・疎明することの重要性を示唆している。
事件番号: 昭和52(あ)1373 / 裁判年月日: 昭和53年2月28日 / 結論: 破棄差戻
公判手続の停止に関する刑訴法三一四条一項の規定は控訴審の手続に準用される。