しかし、所論検察官に対する被告人の第一回供述調書を証拠として被告人の犯罪事実を認定したのは、本件第一審判決であつて、原判決ではない。原判決は被告人側の控訴趣意は何れも理由ないが第一審判決には、事実の確定に影響を及ぼさない法令の適用に違法があるとして第一審判決が確定した事実に対し改めて法令の適用を示し、刑の言渡をしたに過ぎない。してみれば所論は第一審判決に対する非難であるといわなければならない。しかも、右検察官に対する被告人の第一回供述調書の自白は任意性のないものであるとのことは、原審に対する控訴趣意としてはこれを主張せず従つて原判決は、右の事由については何等判断を与えていないところである。控訴審において控訴趣意として主張せず、従つて原判決で何等判断されなかつた点について、第一審判決に憲法違反の瑕疵があると攻撃するにすぎない主張は、上告適法の理由とならない(昭和二四年新(れ)第四九二号、同二五年五月一九日第二小法廷決定、昭和二四年新(れ)第五九号同年一二月一二日第二小法廷決定参照)
一 擬律違反を理由として破棄自判した第二審判決は自ら犯罪事実を認定したものか 二 第一審判決の憲法違反を理由とする上告の適否
刑訴法405条,刑訴法408条
判旨
控訴趣意として主張せず、原判決が何ら判断していない第一審判決の憲法違反を上告理由とすることは、刑訴法405条の上告理由として不適法である。
問題の所在(論点)
控訴審で主張せず、原判決(控訴審)が判断しなかった第一審判決の憲法違反の瑕疵を、上告理由として主張できるか(刑訴法405条、414条、386条1項3号の解釈)。
規範
上告審は控訴判決の当否を審理する事後審であるため、控訴趣意として主張されず、かつ原判決(控訴審判決)が判断を与えていない事項について、第一審判決に憲法違反があることを直接上告理由として主張することは認められない。
重要事実
被告人の第一回検察官面前調書について、任意性に疑いがある自白であるにもかかわらず、第一審判決がこれを証拠として犯罪事実を認定した。被告人側は、控訴審においてこの自白の任意性に関する主張を控訴趣意として提出しなかった。原判決は第一審判決の法令適用を是正して破棄自判したが、事実確定(自白の証拠能力等)については判断を維持していた。上告審に至り、被告人側は初めて当該自白の採用が憲法38条2項に違反すると主張した。
あてはめ
本件において、検察官に対する第一回供述調書の任意性の欠如という憲法違反の主張は、第一審判決に対する非難にすぎない。原判決は控訴趣意として主張されていない事項について何ら判断を下していない。したがって、原判決に憲法違反の判断が含まれない以上、上告理由としての適法性を欠く。また、職権による破棄事由(刑訴法411条)を適用すべき顕著な正義に反する事態とも認められない。
結論
本件上告は、刑訴法405条に規定する適法な上告理由にあたらないため、棄却されるべきである。
実務上の射程
刑事訴訟における上告審の構造(事後審)を端的に示す。第一審で憲法違反があったとしても、控訴審で適切に主張しなかった場合は、上告審での直接の救済は原則として得られないことを意味する。実務上、控訴趣意書の重要性を裏付ける判例であり、答案上は上告理由の適法性を検討する際の規範として機能する。
事件番号: 昭和26(あ)3011 / 裁判年月日: 昭和28年4月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において主張されなかった自白の任意性に関する異議は、上告審において適法な上告理由とはならず、職権調査の必要性も認められない場合は上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、有罪の証拠とされた被告人の自白が任意になされたものではない旨を主張して上告した。しかし、この自白の任意…