一 論旨は、当時の事情の下においては、被告人等三名は本件特殊物件は取引と同時に払下を受けたものであると信ずるに足る十分な理由があつたのであり、被告人に本件特殊物件の取引保管についての真実の認識を期待することは不可能であつて、原判決は各被告人等の期待可能性のない行為を罪とした違法があると主張しているが、右は畢竟、本論旨中の被告人等三名に横領の犯意がなかつたものであるとの主張と同一に帰する。 二 本件特殊物件は「孰れも将来省から払下を受ける迄は自由に処分出来るものではなく、省発注品の資材として使用するについても、一応大鉄局の許可を得なければならぬものであつた」のであるから、たとえ右引取物件が代替物であつてAが他に同種の鋼材を手持していたとしても、なお省の所有に属する右引取物件を受託者において受託の趣旨に反して勝手に使用または売却した所為は、横領罪を構成するものであることは当然である。 三 被告人Bの本件特殊物件の保管が、同被告人の業務(Aの生産部長事務取扱として同会社の所要資材の調査出納保管の事務を担当す)に属するものであることは、田辺弁護人論旨第四点において説明したとおりである。そしてまた、Aが運輸省のために右特殊物件を保管したことが、Aの業務に属するものでないとしても、被告人Bの右物件の横領行為に対しては業務上横領罪が成立する。
一 期待可能性がないとの主張が犯意不存在の主張に過ぎない場合 二 代替物の受託保管と横領罪の成立 三 会社がその業務に関係なく受託保管した物を保管する右会社の物資保管担当者の不法領得行為と業務上横領罪の成立
刑法38条1項,刑法253条
判旨
運輸省の委託を受けて他人の物件を業務上占有保管する者が、将来の払下げを信じていたとしても、許可なく勝手に売却・処分する行為は不法領得の意思を基礎付け、業務上横領罪を構成する。また、資材入手の見返りとしての処分であっても、事務管理として適法化されるものではなく、期待可能性も否定されない。
問題の所在(論点)
将来の払下げを信じて保管中の他人物を無許可で処分した場合に、不法領得の意思が認められ、業務上横領罪(刑法253条)が成立するか。また、資材調達のための代替的処分が適法な事務管理や期待可能性の欠如として許容されるか。
規範
業務上横領罪における「領得」とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、所有者でなければできないような処分をする意思(不法領得の意思)に基づき、その物を自己の所有物として処分することをいう。将来の払下げや所有権取得を主観的に期待していたとしても、現実の占有が委託に基づく保管である以上、許可なき処分は不法領得の意思を肯定すべきであり、資材調達等の動機があっても違法性は阻却されない。
重要事実
被告人らは、運輸省(大鉄局)から放出物資(特殊物件)の緊急搬出と保管の依頼を受けた会社の役員らである。当該物件は、将来的に同社へ払い下げられることが予定されていたが、それまでは運輸省の所有に属し、使用には当局の許可を要するものであった。被告人らは、会社の資金難や資材不足を解消するため、進駐軍向け資材入手の見返り(バーター)として、許可を得ないまま保管中の丸鋼や山形鋼等を第三者に売却した。
あてはめ
被告人らは本件物件を自由に処分できず、使用には許可が必要であることを認識していた。それにもかかわらず、会社の金融難や資材入手という自社の利益・目的のために、当局の許可なく独断で売却した行為は、委託の趣旨に反して所有者でなければできない処分をなしたものといえる。将来の払下げへの期待や、資材調達という動機は、不法領得の意思を否定するに足りず、また他に法にかなう手段をとり得なかった状況とも認められないため、期待可能性も否定されない。したがって、業務上占有する他人の物を領得したものと解される。
結論
被告人らの行為には不法領得の意思が認められ、業務上横領罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
物件の性質が代替物であっても、特定の委託関係に基づき保管されている以上、勝手な消費や売却は横領となる(民法の混和法理による所有権取得の主張を排斥)。「将来自分のものになるはずだ」という主観的期待があっても、現在の権利関係を無視した処分は直ちに領得罪を構成するという実務上の厳格な判断基準を示すものである。
事件番号: 昭和26(れ)443 / 裁判年月日: 昭和26年6月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における不法領得の意思とは、自己または第三者の利益を図る目的で、委託の趣旨に反して権限なく物を処分する意思を指す。本件では、公金を特定の会社の赤字補填に充当する趣旨で処分する行為は不法領得の意思に基づくものと認められる。 第1 事案の概要:被告人は、農林省に所属する本件銑鉄の処分について、そ…
事件番号: 昭和26(れ)2017 / 裁判年月日: 昭和26年12月25日 / 結論: 棄却
刑訴施行法第三条の二が上告理由を制限したからといつて、所論のように憲法違反があるということはできない。