一 右厚生省令第一条は、「塩酸ヂアセチルモルヒネ及其ノ一切ノ製剤ハ之ヲ所有、使用、破棄、贈与、受贈、分配又ハ輸送スルコトヲ得ズ」と規定しているのであるから、同条は右薬品およびその一切の製剤の所有や使用ばかりでなく、すべての処分行為をも禁止している趣旨であること明らかである。されば、その処分行為は有償であると無償であると営利の目的であると否と、不特定人に対するものであると否と、多人数に対するものであると否とを問わず、禁止するもの解すべきである。それゆえ、被告人の所為がたとえ所論のように営利の目的がはくまた特定の友人を相手とするものであつたとしても、犯示所為は、まさに同省令第一条所定の「販売」に該当するものであることは明らかである。 二 有罪判決をするには、罪となるべき事実および証拠によりこれを認た理由を説明し、法令の適用を示せば足りるのである。そして被告人が当該禁止規定のあることを知りながら犯行をしたか否かは、罪となるべき事実に属しないから、特にこれを判示する必要はない。
一 昭和二〇年一一月二〇日厚生省第四四号第一条が禁止する塩酸ヂアセチルモルヒネの処分行為 二 刑罰法規の認識の有無について特に判示することの要否
昭和20年11月20日厚生省44号1条,刑法38条3項,旧刑訴法360条1項
判旨
犯罪の構成に必要な事実を認識している以上、その事実が法律上禁止されていることを知らなくても犯意の成立を妨げず、いわゆる違法の認識は犯意成立の要件ではない。
問題の所在(論点)
刑法上の「犯意」の成立に「違法の認識(自己の行為が法律に違反していることの認識)」が必要か。また、法令の不知が犯意を阻却するか。
規範
刑法上の犯意(故意)が成立するためには、犯罪の構成に必要な客観的事実の認識があれば足り、その事実が特定の法律によって禁じられているという「違法の認識(法律の不知)」を欠いていたとしても、犯意の成立は妨げられない。
重要事実
事件番号: 昭和24(れ)2006 / 裁判年月日: 昭和26年1月30日 / 結論: 棄却
新憲法施行後においても当裁判所は、有毒飲食物等取締令違反被告事件につき、犯罪の構成に必要な事実の認識に欠くるところがなければその事実が法律上禁ぜられていることを知らなかつたとしても、犯意の成立を妨げるものでない旨説示して従前の判例を維持したのである(昭和二三年(れ)第二〇二号同年七月一四日大法廷判決)。そしてその後当裁…
被告人は、厚生省令第44号により所有・販売等が禁止されていた「塩酸ヂアセチルモルヒネ(ヘロイン)」を販売した。被告人は当時医師会の会員ではなく、同省令が公布・施行されていた事実を知らなかったため、自らの行為が違法であるとの認識を欠いていたと主張し、犯意の成立を争った。
あてはめ
本件において、被告人は塩酸ヂアセチルモルヒネを「販売」するという客観的構成要件に該当する事実を認識していた。法令が公布・施行されている以上、被告人がたまたま医師会非会員であったために当該省令を知らなかったとしても、それは単なる「法令の不知」に過ぎない。犯罪構成事実の認識がある以上、法令の不知によって犯意の成立が否定されることはなく、故意犯として処罰される。
結論
違法の認識は犯意成立の要件ではないため、被告人に法令の不知があっても犯罪は成立する。
実務上の射程
故意の要件として、構成要件的事実の認識(事実の錯誤)があれば足り、違法の認識(法律の錯誤)は不要とする「不要説」を維持した判例である。司法試験においては、責任説の立場から「違法性の意識の可能性」を論じる際の前段階の判例として位置づけ、現在の判例・実務上の到達点を示す際に参照する。
事件番号: 昭和28(あ)1506 / 裁判年月日: 昭和29年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律の不知、すなわち違法の認識を欠いたとしても、それ自体では犯意(故意)がないものとすることはできない。 第1 事案の概要:上告人は、違法の認識を欠いた場合には犯意(故意)が否定されるべきである旨、また事実誤認や訴訟法違反がある旨を主張して上告した。なお、具体的な犯行事実は本判決文からは不明である…