本件において一審判決は被告人に対し懲役四月及罰金五万円に処する。但懲役刑については一年間その執行を猶予する旨を言渡したに対し、原審は、罰金十五万円に処する旨の判決を言渡したのであつて、懲役刑が罰金刑よりも重い刑であることは刑法第一〇条の明定するところであるから、右原審の刑を以て第一審の刑よりも重いとすることはできない。従つて論旨は理由がない。
第一審において懲役四月及罰金五万円を言渡し第二審において罰金一五万円を言渡した場合と不利益変更の禁止
旧刑訴法403条,刑法10条
判旨
物価統制令に基づく指定価格が、特定の営業者の製造原価を下回るとしても、直ちに営業の継続を不可能にする不当な規制とはいえず、憲法の保障する財産権や営業の自由に反しない。また、懲役刑(執行猶予付)を罰金刑に変更することは、刑の軽重に関する規定に照らし、不利益変更には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 物価統制令に基づく指定価格が製造原価を下回る場合に、当該規制が財産権や営業の自由を侵害し違憲となるか。2. 懲役刑から罰金刑への変更が不利益変更にあたるか。3. 罰金刑の増額が憲法36条の「残虐な刑罰」に該当するか。
規範
1. 公共の福祉に基づく経済規制の合憲性は、規制が当該事業を絶対的に成立不能にするなど、合理的限度を逸脱しているか否かにより判断される。2. 刑の軽重は刑法10条の規定により定まり、第一審の懲役刑(執行猶予付)を控訴審で罰金刑に変更することは、刑の不利益変更(刑事訴訟法上の原則)には抵触しない。3. 憲法36条にいう「残虐な刑罰」とは、人道上耐え難い苦痛を伴う処罰を指し、適正な範囲内の罰金刑はこれに該当しない。
重要事実
被告人は、飴菓子の製造販売業を営んでいたが、物価庁告示の指定価格(100匁につき35円50銭)を超過した価格で販売したとして、物価統制令違反で起訴された。被告人は、自身の製造原価が100匁につき165円であり、指定価格では採算が取れず営業が成り立たないことから、当該規制は違憲であると主張。また、第一審の「懲役4月(執行猶予1年)及び罰金5万円」に対し、控訴審が「罰金15万円」としたことは不利益変更であり、かつ残虐な刑罰に当たると主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人の製造原価が指定価格を上回るとしても、それが直ちに全ての飴菓子製造業の採算を不可能にするとは認められず、本件規制が合理的限度を超え事業を絶対的に成立不能にする証拠はない。2. 刑法10条により懲役刑は罰金刑より重いと定められているため、執行猶予が付されているか否かを問わず、懲役刑を罰金刑に変更することは刑を軽くしたものと解される。3. 罰金15万円という量刑は、犯行の態様に照らし妥当な範囲内であり、人道上の観点から「残虐な刑罰」と評される余地はない。
結論
本件指定価格告示は合憲であり、また控訴審の量刑変更も不利益変更や残虐な刑罰には当たらないため、上告を棄却する。
実務上の射程
経済的自由(営業の自由)に対する規制の限界について、規制が「事業を絶対的に成立不能にする」ほどの過度なものかという基準を示す。また、刑の軽重判断(刑法10条)において、主刑の種類の変更が不利益変更に該当するかを検討する際の基礎的な判断枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和25(あ)2691 / 裁判年月日: 昭和27年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を指す。法律の範囲内で量定された刑が、被告人にとって過重であっても、直ちにこれに該当するものではない。 第1 事案の概要:被告人が提起した上告において、弁護人は事実審による量刑が重すぎることを理…