論旨第一点についていえば、所論の点に関する第二審判決の欠陷はただ所論検事の聴取書中に引用された所論送付書の記載を証拠として判決に挙示することを忘れただけのことであり、右送付書の記載さえ判決に挙示されて居れば第二審判決には何等欠陷はなかつたのである。そして原審はかかる場合でも判決挙示の他の証拠で判示犯罪事実が認められれば差支ないものと判断したのであり、論旨は結局原審の右判断を攻撃するに帰するもので、右判断が憲法上の判断でないこと、いうを俟たない。
一部の証拠を判決に挙示することを怠つた証拠説明の不備と再上告理由
旧刑訴法336条,旧刑訴法410条19号,旧刑訴法360条1項,刑訴応急措置法17条
判旨
高等裁判所が上告審としてした判決に対し、最高裁判所へさらに上告(再上告)ができるのは、原判決が法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するか否かについてした判断が不当であることを理由とする場合に限られる。
問題の所在(論点)
高等裁判所が上告審としてした判決に対し、刑訴応急措置法17条に基づく再上告が認められるための要件、および「憲法違反」という文言を用いながら実質的に証拠法則や法令解釈を争う主張が同条の再上告理由に該当するか。
規範
刑訴応急措置法17条に基づき、高等裁判所が上告審としてした裁判に対する最高裁判所への再上告は、原判決において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するか否かについてした判断が不当であることを理由とする場合に限り許容される。したがって、原判決が憲法判断自体を行っていない場合や、再上告の理由が実質的に憲法違反以外の法令解釈や採証法則の適否を争うものである場合には、適法な再上告理由とはならない。
重要事実
被告人は、高等裁判所が上告審として下した判決に対し、最高裁判所へ再上告を提起した。再上告の論旨として、被告人は「憲法違反」という用語を用いながらも、その実質的内容は、原審が証拠として挙示した検察官聴取書に関連する送付書の記載を判決に引用し忘れた点(採証法則の誤り)や、憲法以外の法令の解釈の誤りを主張するものであった。
あてはめ
本件再上告論旨は「憲法違反」と称しているが、その実質は原審の採証法則上の判断や憲法以外の法令の解釈を攻撃するものである。具体的には、証拠一覧への記載漏れという技術的な不備を指摘するものであり、他の証拠で犯罪事実が認められるとした原審の判断は、憲法適合性に関する判断ではない。したがって、原審が憲法適合性について下した判断の不当性を理由とするものとは認められない。
結論
本件再上告は、適法な再上告理由(刑訴応急措置法17条)を備えていないため、棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法406条の特別上告制度等の前身的な議論であり、現在の最高裁判所に対する上告理由(刑訴法405条)が憲法違反や判例相反に限定されている趣旨と共通する。単なる事実誤認や法令違背を憲法違反にこじつけて主張しても、適法な上告理由として認められないという実務上の峻別を示すものである。
事件番号: 昭和26(あ)2803 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の主張が実質的に単なる訴訟法違反にすぎない場合、憲法違反を理由とする上告適格を欠き、刑訴法411条の職権破棄事由も認められない場合には上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人が憲法違反を理由として上告を申し立てた。しかし、その主張の具体的内容は、原審が不当に公訴を受理し有罪判決を下…