一 被告人の自白を唯一の證據として判示事實を認定したということ、被告人の唯一の證據申出を却下したということは、適法の飛躍上告の理由とならない。(裁判官眞野毅の少數意見がある) 二 所論の如く裁判所は、法令に對する憲法審査權を有し、若しある法令の全部又は一部が、憲法に適しないと認めるときはこれを無効として其適用を拒否することができると共に、有罪の言渡をなすにはその理由において、必ず法令の適用を示すべき義務あるものであるから、當事者においてある法令が憲法に適合しない旨を主張した場合に、裁判所が有罪判決の理由中に其法令の適用を舉示したときは、其法令は憲法に適合するものであるとの判斷を示したものに外ならならと見るを相當とする。從つて原審における所論の主張に對し、特に憲法に適合する旨の判斷を積極的に表明しなかつたとしても、所論の如く判斷を示さない違法があると言い得ない。 三 上告論旨第三點に、原審裁判所に提出した辯論要旨參照とあるのは原審の記録に編綴られているのであつて上告趣意書として當裁判所に提出されたものではなく、適法な上告趣意書の内容をなすものではないから、別に此點について説示しない。 四 食糧管理法は、憲法第二五條に違反するものでないことは、當裁判所判例の示すところである(昭和二三年(れ)第二〇五號事件同二三年九月二九日大法廷判決參照)
一 證據の取捨に對する非難と飛躍上告の理由の適否 二 違憲の主張のあつた法令を適用するに當り特に判斷を明示しなかつた場合と憲法適合の判斷判示の有無 三 上告趣意書中「原裁判所に提出した辯論要旨參照」と記載された部分に對する説示の要否 四 食糧管理法と憲法第二五條第一項
刑訴法415條,刑訴法360條1項,刑訴法425條,憲法76條,憲法81條,憲法25條1項,食糧管理法9條31條
判旨
飛躍上告において「法令の適用を誤ったこと」を理由とする場合は、第一審が認定した事実を前提とした法令適用の是非を争うものに限られ、事実認定の手続上の違法を争うことはできない。また、裁判所が有罪判決の理由中で法令を適用した場合は、当然に当該法令が憲法に適合すると判断したものと解される。
問題の所在(論点)
1. 事実認定の基礎となる証拠法則の違反や訴訟手続の違背は、飛躍上告の適法な理由となるか。2. 判決理由において適用法令が憲法に適合する旨の積極的な判断を明示しなかったことは、理由不備の違法となるか。
規範
1. 飛躍上告(刑事訴訟法406条、旧法416条)の理由は、判決により確定した被告事件の事実に対し法令を適用せず、または不当に適用したこと、あるいは刑の廃止・変更、大赦があった場合に限られる。2. 裁判所は法令に対する憲法審査権を有し、有罪判決において法令を適用した場合には、明示的な判断がなくとも当該法令を憲法に適合するものと判断したと解するのが相当である。
重要事実
被告人は、第一審判決に対し控訴することなく、直ちに最高裁判所へ飛躍上告を行った。上告理由は、第一審が被告人の自白のみを唯一の証拠として事実を認定した点(証拠法則違反)や、唯一の証拠申出を却下した点(訴訟手続違背・憲法違反)のほか、適用された食糧管理法の憲法適合性に関する判断が判決理由に示されていないという点であった。
あてはめ
1. 飛躍上告の制度趣旨は、事実関係には異議がなく、純粋な法律判断のみを早期に仰ぐ点にある。本件で主張された自白の証拠能力や証拠申出の却下は、事実認定のプロセス(手続)に対する非難であり、確定した事実への「法令の適用」の誤りをいうものではない。2. 裁判所には有罪判決に際し法令の適用を示す義務がある。特定の法令を適用して有罪とした以上、付随的にその法令の合憲性を肯定したものとみなされるため、不合憲の主張に対しあえて積極的な合憲判断を文言として示さなくとも違法ではない。
結論
本件上告は飛躍上告の適法な理由を欠くため棄却される。また、原審が食糧管理法の合憲性について明示的な判断を示さなかった点に違法はない。
実務上の射程
飛躍上告の理由が「確定した事実に対する法令適用の当否」に限定されることを明確にした点、および判決における憲法判断の「黙示の判断」を認めた点で実務上重要である。司法試験においては、上告理由の制限や、判決理由の不備(刑訴法335条1項)を論じる際の補助的論拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)2846 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の上告趣意が単なる訴訟法違反の主張にとどまり、刑訴法405条所定の上告理由に当たらない場合には、同法414条・386条1項3号により上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人が訴訟法違反を理由として上告を申し立てた事案。弁護人が提出した上告趣意の内容を検討したところ、刑訴法405条が…