記名被保険者の承諾を得ないで被保険自動車を転借した者が運転中に生じた自損事故は、自家用自動車保険契約中の自損事故に関する免責条項にいう「被保険自動車の使用について、正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害」にあたる。
記名被保険者の承諾を得ないで被保険自動車を転借した者が運転中に生じた自損事故と自家用自動車保険契約中の自損事故に関する免責条項にいう「被保険自動車の使用について、正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害」
商法629条,商法641条
判旨
自動車保険の免責条項にいう「正当な権利を有する者」とは、原則として記名被保険者またはこれに準ずる者を指す。記名被保険者の承諾を得ず、借受人から転借して運転していた者に生じた傷害については、保険会社は保険金の支払義務を免れる。
問題の所在(論点)
自損事故保険における「正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車を運転しているとき」という免責条項の解釈、特に記名被保険者の承諾を得た借受人から、さらに承諾を得て運転した「転借人」が同条項に該当するか。
規範
本件免責条項の趣旨は、保険契約締結時に通常の使用が予定され、かつ損害の填補が相当と認められる記名被保険者等に被保険者の範囲を限定することにある。したがって、同条項にいう「正当な権利を有する者」とは、一般に記名被保険者またはこれに準ずる名義被貸与者を指す。よって、記名被保険者の承諾を得ない転借人が運転中に生じた傷害については、保険会社は免責される。
重要事実
記名被保険者Dは、知人Eに本件自動車を貸し出した。Eは自宅に友人のGを招いていた際、Gに対して飲み物を買いに行く目的で本件自動車の運転を許諾した。Gが本件自動車を運転中に自損事故を起こして死亡したため、Gの遺族(被上告人ら)が保険会社(上告人)に対し、自損事故保険金の支払を請求した。なお、DがGによる運転を承諾していた事実は認められない。
あてはめ
本件において、記名被保険者はDであり、EはDから直接借り受けた借受人である。本件交通事故の運転者Gは、借受人Eからは運転の承諾を得ているものの、記名被保険者Dからは直接の承諾を得ていない。免責条項の「正当な権利を有する者」は記名被保険者等を指すところ、Dの承諾がない以上、Gは「正当な権利を有する者の承諾を得ないで運転している者」に該当すると判断される。
結論
Gは正当な権利を有する者の承諾を得ないで運転していたといえるため、免責条項が適用される。したがって、保険会社は保険金の支払義務を負わない。
実務上の射程
記名被保険者からの承諾の有無を厳格に判定する立場を示しており、他車運転特約や対人賠償における「許諾被保険者」の解釈においても、記名被保険者の明示または黙示の承諾が認められるかどうかが判断の分水嶺となる。答案では、承諾の連鎖を認めず「記名被保険者等」に限定する論理として用いる。
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