使用者の社屋内更衣室において、被用者甲が被用者乙に対して加えた暴行が、前日の事業の執行行為を契機として発生した両者の口論にかかわり合いがある言葉のやりとりに端を発するものであつても、右暴行は必ずしも前日の口論から自然の勢いで発展したものではなく、しかも右前日の口論とは時間的にも場所的にもかなりのへだたりがあることなど、判示の事情のもとでは、右甲の暴行により乙の被つた損害は、使用者の事業の執行につき加えた損害にあたるとはいえない。
被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害にあたらないとされた事例
民法715条
判旨
従業員間の暴行が民法715条1項の「事業の執行につき」なされたというためには、行為の外形のみならず、発生の経緯や時間的・場所的関連性を総合考慮すべきであり、前日の業務上の口論を契機としつつも翌日の私的な感情対立に発展した暴行については、事業執行との密接関連性を否定した。
問題の所在(論点)
従業員間の暴行が、前日の業務上の口論を契機としている場合であっても、翌日の私的なやりとりを経て行われたものであるとき、民法715条1項の「事業の執行につき」なされたものといえるか。
規範
民法715条1項の「事業の執行につき」とは、行為の外形からみて、客観的に使用者の事業の枠内といえる場合を指す(外形標準説)。もっとも、従業員間の暴行等の不法行為については、単に業務時間内・場所内であることのみならず、暴行に至る経緯、業務との関連性の強弱、前身となる紛争からの時間的・場所的連続性などを総合的に考慮し、当該行為が事業の執行と密接な関連を有するものであるか否かによって判断すべきである。
重要事実
生コン運搬作業中の従業員AとBが、積込みの有無という業務上の些細な事柄から口論となった。Bは暴力の素振りを見せ、Aが力による解決を唆す発言をしたため、Bは帰宅するAを追ったが見失い、その日の紛争は一旦終了した。翌朝、会社の更衣室でBがAに対し、前日の喧嘩を回避したことを嘲笑する言葉を投げかけ、これに激昂したBがAに暴行を加えた。
あてはめ
本件暴行は、前日の事業執行行為(生コン積込)を契機として発生した口論に端を発している。しかし、前日の紛争は当日中に一旦終了しており、翌日の暴行直前のやりとりは、業務内容ではなく互いの「度胸」の有無を嘲笑し合うという私的な内容に変質していた。また、前日の口論と翌日の暴行との間には時間的・場所的な隔たりがあり、前日の業務上の口論から「自然の勢いで発展」したものとは認められない。したがって、本件暴行は事業の執行と密接な関連を有するとはいえない。
結論
被上告人B2による暴行は、被上告会社の「事業の執行につき」なされたものということはできず、使用者の民法715条1項に基づく責任は成立しない。
実務上の射程
従業員間の私闘における使用者責任の成否を判断する際のリーディングケースである。業務上の口論が先行していても、時間的な断絶や動機の私事化(感情的対立への変質)がある場合には「密接関連性」が否定されやすいことを示しており、答案上は時間的・場所的接着性と紛争の性質の連続性を具体的事実から検討する際に用いる。
事件番号: 昭和33(オ)528 / 裁判年月日: 昭和37年3月20日 / 結論: 棄却
名古屋市財政局主税課に所属する財政局主事が、同局所管事務に属する差押物件公売処分として物件を売却する旨申し欺き、公売代金名下に他より金員を詐取した場合でも、差押物件公売処分が同局収納課の所管であつて右主事の職務と制度上はもとより事実上も全く関係がなく、しかも外見上も公売処分たる形態を備えず、名古屋市の事務執行として事実…