抵当債務は、抵当権設定登記の抹消登記手続より先に履行すべきもので、後者とは同時履行の関係に立たない。
抵当債務の弁済と抵当権設定登記の抹消登記手続との同時履行関係の有無
民法533条
判旨
金銭消費貸借に基づく借入金債務の弁済と、当該債務を担保するために設定された抵当権設定登記の抹消手続とは、弁済が先履行の関係にあり、同時履行の関係には立たない。
問題の所在(論点)
債務の弁済と担保権設定登記の抹消手続は、民法533条の類推適用等により同時履行の関係に立つか。
規範
債務の弁済と、その債務を担保するために経由された抵当権設定登記の抹消登記手続とは、債務の弁済が先履行の関係にあり、民法533条の同時履行の抗弁権は適用されない。
重要事実
上告人(債務者)は、被上告人(債権者・抵当権者)に対し、貸金債務の弁済と引換えに、自己所有の不動産に設定された抵当権設定登記の抹消手続を求めた。原審は、債務の弁済と登記抹消手続が引換給付の関係にあるとして、引換給付判決を下した。これに対し、上告人は原審の認定判断に不服があるとして上告したが、被上告人からは上告がなされなかった。
あてはめ
抵当権は債務の存在を前提とする附随的なものであり、債務が完済されることで当然に消滅する性質を有する。そのため、まず債務が弁済されることが先決であり、その結果として発生する登記抹消手続は後次的な義務に過ぎない。したがって、両者は対価的意味を有する交換関係にはなく、弁済が先履行であると解される。
結論
債務の弁済と抵当権抹消登記手続は同時履行の関係に立たない。本件では、原審が引換給付(同時履行)を命じた点に法の解釈適用の誤りがあるが、上告人(債務者)のみが上告しているため、不利益変更禁止の原則に基づき、上告を棄却せざるを得ない。
実務上の射程
担保権(抵当権等)の抹消と債務弁済の先履行関係を定めた重要判例である。答案上は、弁済の有効性や受領遅滞が問題となる場面で、債務者が登記抹消との同時履行を主張しても、提供すべき債務(弁済)が先履行であることを指摘し、抗弁を排斥するために用いる。
事件番号: 昭和59(オ)594 / 裁判年月日: 昭和63年4月8日 / 結論: その他
物上保証人からされた被担保債権の将来の弁済を原因とする抵当権設定登記又はいわゆる仮登記担保権の仮登記の抹消登記手続を求める請求は、将来物上保証人が被担保債権を弁済することを条件としても、認容することができる。
事件番号: 昭和39(オ)321 / 裁判年月日: 昭和40年2月19日 / 結論: 棄却
昭和三三年一二月一六日の抵当権設定契約を原因とする登記の記載が昭和三三年一〇月一五日付抵当権設定契約に因るものとされていても、右の程度の相違は登記の無効をきたさない。
事件番号: 昭和62(オ)1076 / 裁判年月日: 昭和63年3月15日 / 結論: 破棄差戻
言渡期日の指定なくしてされた判決の言渡は、民訴法三八七条にいう「判決ノ手続カ法律ニ違背シタルトキ」に当たる。
事件番号: 昭和55(オ)375 / 裁判年月日: 昭和55年9月5日 / 結論: 棄却
手形を偽造した者は、その取得者が悪意であるときは、手形法八条の規定の類推適用がなく、右取得者に対し手形上の責任を負わない。