手形を偽造した者は、その取得者が悪意であるときは、手形法八条の規定の類推適用がなく、右取得者に対し手形上の責任を負わない。
手形偽造者の悪意の取得者に対する手形上の責任
手形法8条,手形法77条2項
判旨
偽造手形を振り出した者は、手形法8条の類推適用により手形上の責任を負うが、これは善意の所持人を保護し取引の安全に資する趣旨である。したがって、偽造の事実を知って手形を取得した悪意の所持人に対しては、同条を類推適用できず、偽造者は手形上の責任を負わない。
問題の所在(論点)
手形を偽造した者が手形法8条の類推適用により手形上の責任を負う場合において、所持人が当該手形の偽造について悪意であったとしても、なお同条の類推適用を認めることができるか。
規範
偽造手形を振り出した者が手形法8条(無権代理人の責任)の類推適用により手形上の責任を負うのは、善意の手形所持人を保護し、取引の安全に資する点にある。したがって、手形が偽造されたものであることを知ってこれを取得した「悪意」の所持人に対しては、同条を類推適用する余地はない。
重要事実
被上告人は、Dに無断で同人の印章を押捺し、あるいは他人をして押捺させて、D名義の約束手形を振り出した。上告人は、被上告人がDに無断で右約束手形を振り出すことを知りながら、当該手形を取得した。その後、上告人が偽造者である被上告人に対し、手形法8条の類推適用に基づく手形債務の履行を求めて提訴した。
事件番号: 昭和43(オ)732 / 裁判年月日: 昭和45年11月19日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙からその所有不動産を買い受けたものであるにもかかわらず、乙に対する貸金を被担保債権とする抵当権と、右貸金を弁済期に弁済しないことを停止条件とする代物弁済契約上の権利とを有するものとして、抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合において、丙が乙から右不動産を買い受けて所有権取得登記を経由した…
あてはめ
本件において、被上告人はD名義の手形を偽造した者であり、原則として手形法8条の類推適用による責任を負い得る。しかし、上告人は被上告人がDに無断で手形を振り出したという偽造の事実を知ってこれを取得した。手形法8条の類推適用の趣旨は善意の所持人保護にあるところ、悪意の所持人である上告人を保護する必要はない。したがって、上告人に対する関係で、被上告人に手形法8条を類推適用することはできない。
結論
被上告人は、悪意の上告人に対して本件約束手形につき手形上の責任を負わない。
実務上の射程
手形偽造者の責任に関するリーディングケース。答案上は、まず偽造者責任の根拠として8条類推を提示した上で、相手方の主観(善意・悪意)によって結論を分ける際のメルクマールとして活用する。相手方の「重過失」がある場合にまで責任を否定できるかについては本判決は明言していないが、趣旨(取引の安全)から善意無重過失を要求する有力説との接合を検討する余地がある。
事件番号: 昭和35(オ)85 / 裁判年月日: 昭和35年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭債務を負担しているかのように通謀仮装し、その担保として不動産に抵当権を設定・登記した場合、当該抵当権設定契約は通謀虚偽表示として無効である。 第1 事案の概要:DとEは、DがEに対して60万円の債務を負担しているかのように装うことを合意した。さらに、その仮装債務を担保する目的で、D所有の不動産…
事件番号: 昭和52(オ)595 / 裁判年月日: 昭和54年4月17日 / 結論: 破棄差戻
登記が偽造文書による登記申請に基づいてされた場合に登記義務者において登記の無効を主張することができないものというためには、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者においてその登記を拒みうる特段の事情がないというだけでなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があることを要す…
事件番号: 昭和40(オ)583 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 棄却
無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
事件番号: 昭和35(オ)865 / 裁判年月日: 昭和37年4月20日 / 結論: 棄却
抵当権者不知の間に不法に抹消された抵当権設定登記の回復登記について、登記上利害関係を有する第三者は承諾を拒みえない。