判旨
金銭債務を負担しているかのように通謀仮装し、その担保として不動産に抵当権を設定・登記した場合、当該抵当権設定契約は通謀虚偽表示として無効である。
問題の所在(論点)
実体的な債権債務関係が存在しないにもかかわらず、通謀して債務負担を仮装し、それを担保するために不動産へ抵当権を設定・登記した場合、当該抵当権の効力はどうなるか。民法94条1項の通謀虚偽表示の成否が問題となる。
規範
相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効とする(民法94条1項)。金銭消費貸借契約およびこれを担保するための抵当権設定契約において、当事者間に債権債務を発生させる真意がないにもかかわらず、外形的にのみ合意を装った場合には、当該契約および抵当権設定は通謀虚偽表示に該当し、法律上の効力を生じない。
重要事実
DとEは、DがEに対して60万円の債務を負担しているかのように装うことを合意した。さらに、その仮装債務を担保する目的で、D所有の不動産に抵当権を設定し、その旨の登記を完了させた。しかし、実際には両者の間に債権債務関係を成立させる実体的な合意は存在しなかった。
あてはめ
DとEは、債権債務が存在しないことを知りながら、あえて60万円の債務があるかのように装っており、意思と表示の不一致がある。また、この不一致について両者の間に通謀がある。さらに、この仮装債務を担保するための抵当権設定も、真実の担保権を設定する意思に基づくものではなく、外形を整えるための手段に過ぎない。したがって、抵当権設定の意思表示は虚偽のものであり、通謀虚偽表示の要件を充足する。
結論
DとEとの間の抵当権設定契約は通謀虚偽表示により無効であり、本件抵当権の設定および登記はその効力を有しない。
実務上の射程
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。
通謀虚偽表示の基本的事例である。答案上は、抵当権の被担保債権が不存在であるというだけでなく、設定行為自体に「通じてした虚偽の意思表示」があることを指摘する際に用いる。また、94条2項の第三者が現れた場合には、本判決のような無効を前提とした上で、善意の第三者との関係を論じることになる。
事件番号: 昭和35(オ)994 / 裁判年月日: 昭和37年8月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭借用証書の形式で作成された書面であっても、実質が他人の債務に対する重畳的債務引受およびその担保のための抵当権設定であれば、当該実態に基づいて権利義務関係を判断すべきである。訴訟手続において、控訴の不適法に関する抗弁が撤回された場合には、裁判所はその適否について判断を要しない。 第1 事案の概要…
事件番号: 昭和45(オ)1154 / 裁判年月日: 昭和46年3月26日 / 結論: 棄却
甲からの手形の割引による金員の借用の申込を諒承した銀行が、甲と銀行との間に従前取引がなかつたため、貸付の便宜上銀行と取引関係のある乙を借主とし、甲を担保提供者として甲所有の土地に根抵当権を設定して右手形の割引をすることとして右土地につき根抵当権を設定した場合において、右根抵当権の債務者を乙、被担保債権を銀行の乙に対する…
事件番号: 昭和55(オ)1006 / 裁判年月日: 昭和56年10月30日 / 結論: 棄却
被担保債権である将来発生すべき求償債権を既発生の賃金債権と表示してされた抵当権設定仮登記であつても、その後同額の求償債権が現実に発生して存在しており、登記原因とされた賃金債権は右求償債権を目的とするもので、債務者がこれにつき抵当権設定の意思を表示し、かつ、被担保債権の表示、特定等をすべて債権者に任せていた等原判示の事情…
事件番号: 昭和55(オ)375 / 裁判年月日: 昭和55年9月5日 / 結論: 棄却
手形を偽造した者は、その取得者が悪意であるときは、手形法八条の規定の類推適用がなく、右取得者に対し手形上の責任を負わない。