不動産につき取得時効が完成したときは、右不動産について右取得時効期間の進行中に締結され、所有権移転請求権仮登記により保全された売買予約上の買主の地位は消滅し、時効取得者は、その所有権の取得を登記なくして右仮登記権利者に対抗することができる。
不動産の時効取得と仮登記を経由した右不動産の売買予約上の買主の地位
民法162条,不動産登記法2条,不動産登記法7条
判旨
不動産の時効完成時における売買予約上の買主の地位を有する者は、時効の当事者に該当し、民法177条の「第三者」には当たらないため、時効取得者は登記なくして所有権取得を対抗できる。
問題の所在(論点)
不動産の時効完成時において、当該不動産につき売買予約上の買主の地位(および仮登記)を有する者が、民法177条にいう「第三者」に含まれるか、あるいは時効の当事者として登記なくして対抗を受ける関係にあるか。
規範
不動産の時効取得者は、時効完成時の所有者に対しては登記なくしてその権利を対抗できる。時効完成の時点で目的不動産につき売買予約上の買主の地位にある者は、時効によって権利を喪失する直接の当事者であって、民法177条の「第三者」に該当しない。したがって、時効取得者は登記がなくても、当該買主に対して所有権取得を対抗できる。
重要事実
Dは、昭和42年にEとの間で本件土地の売買予約を締結し、所有権移転請求権仮登記を経由した。上告人は、昭和47年にEからこの売買予約上の地位を譲り受け、仮登記の移転登記を完了した。一方で、被上告人は本件土地を善意無過失かつ所有の意思をもって占有し、昭和45年11月1日に10年の取得時効が完成した。被上告人は、登記なくして上告人に対し所有権取得を主張した。
事件番号: 昭和57(オ)578 / 裁判年月日: 昭和60年11月26日 / 結論: 棄却
仮登記担保権の設定された不動産の第三取得者は、当該仮登記担保権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
あてはめ
本件では、被上告人の取得時効は昭和45年に完成している。この時点における売買予約上の買主たる地位(Eの地位)は、上告人が承継したものである。時効完成によって消滅すべき権利を有していた者は時効の直接の当事者といえる。上告人の有する買主たる地位は、被上告人の取得時効完成により消滅する関係にあり、上告人は時効完成後の第三者ではなく、時効完成時の当事者としての地位を承継した者にすぎない。したがって、上告人は民法177条の「第三者」には該当せず、対抗問題は生じない。
結論
被上告人は、本件土地の時効による所有権取得を、登記なくして上告人に対抗することができる。
実務上の射程
時効完成前の権利主張者(売買予約者や仮登記権利者)は、時効完成時における物権変動の当事者として扱われ、177条の第三者保護の対象外となる。答案上では、時効完成「前」の第三者との関係として整理し、二重譲渡類似の対抗問題が生じないことを示す根拠として活用する。
事件番号: 昭和52(オ)589 / 裁判年月日: 昭和54年9月11日 / 結論: その他
停止条件付代物弁済契約に基づき所有権移転の仮登記が経由されたのちに仮登記の目的物件につき権原を取得して占有を開始した第三者は、仮登記権利者が右停止条件付代物弁済契約に基づき目的物件の所有権を取得し本登記を経由しても、仮登記権利者に対し右所有権取得後本登記までの目的物件の占有につき遡つて不法占有による損害賠償責任を負うも…
事件番号: 昭和31(オ)172 / 裁判年月日: 昭和33年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記は物権変動の対抗要件にすぎず、第三者が登記名義を有しない実体上の所有者を認め、登記名義人への権利帰属を否認することは妨げられない。また、未登記不動産の譲受人が直接自己名義で行った所有権保存登記は、現在の権利状態と符合する限り有効である。 第1 事案の概要:本件土地は実質的にA1の所有であ…
事件番号: 平成2(オ)742 / 裁判年月日: 平成4年3月19日 / 結論: 棄却
売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記のされた不動産につき所有権移転登記を経由した第三取得者は、予約完結権の消滅時効を援用することができる。
事件番号: 昭和57(オ)452 / 裁判年月日: 昭和58年7月5日 / 結論: 棄却
不動産の売買の遡及的合意解除がされた場合、買主から右不動産を取得したが対抗要件としての登記を経由していない者は、たとえ仮登記を経由したとしても、民法五四五条一項但書にいう「第三者」として保護されない。