売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記のされた不動産につき所有権移転登記を経由した第三取得者は、予約完結権の消滅時効を援用することができる。
売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記のされた不動産の第三取得者と予約完結権の消滅時効の援用
民法145条,民法556条
判旨
売買予約に基づく仮登記がされた不動産の譲受人は、予約完結権が行使されると所有権を失う立場にあるため、民法145条の「当事者」として予約完結権の消滅時効を援用できる。
問題の所在(論点)
売買予約に基づく仮登記が経由された不動産の第三取得者(所有権譲受人)は、民法145条(時効の援用)の「当事者」として、当該売買予約に基づく予約完結権の消滅時効を援用することができるか。
規範
民法145条にいう時効を援用し得る「当事者」とは、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。不動産の譲受人は、当該不動産に設定された売買予約に基づく予約完結権が消滅することにより、自己の所有権に対する制限を免れ、所有権を全うすることができる地位にあるため、当該予約完結権の消滅によって直接利益を受ける者に当たる。
重要事実
債権者Dは、債務者Eに対する貸金債権を担保するため、本件土地につき売買予約を締結し、所有権移転請求権保全仮登記(本件仮登記)を経由した。その後、本件土地はEから第三者へ転々と譲渡され、最終的に被上告人らが相続により所有権を取得し、所有権移転登記を経由した。一方で、上告人はDから貸金債権および予約完結権を譲り受け、予約完結権行使の意思表示をした。これに対し、被上告人らは予約完結権の消滅時効を援用し、仮登記の抹消等を求めた。
事件番号: 昭和57(オ)578 / 裁判年月日: 昭和60年11月26日 / 結論: 棄却
仮登記担保権の設定された不動産の第三取得者は、当該仮登記担保権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
あてはめ
本件において、被上告人らは本件仮登記がなされた後の本件土地につき所有権を取得し、その旨の登記を経由している。仮に予約完結権が行使されると、仮登記の順位保全効により、被上告人らは本登記手続に対する承諾義務を負い、最終的にその所有権登記を抹消される関係にある(不動産登記法旧105条、146条1項参照)。その反面、予約完結権が消滅すれば、被上告人らは登記を抹消される懸念がなくなり、所有権を完全に確保できる地位にある。したがって、被上告人らは予約完結権の消滅により「直接利益を受ける者」といえる。
結論
売買予約の仮登記がなされた不動産の譲受人は、民法145条の当事者に該当し、予約完結権の消滅時効を援用できる。
実務上の射程
消滅時効の援用権者の範囲に関するリーディングケースである。判例は、物権的権利だけでなく、予約完結権のような形成権についても、その行使により不利益を受ける法的地位にある者には援用権を認めている。司法試験においては、抵当不動産の第三取得者や、後順位抵当権者の援用権の可否を論じる際の比較基準として活用すべきである。
事件番号: 昭和56(オ)782 / 裁判年月日: 昭和56年11月24日 / 結論: 棄却
不動産につき取得時効が完成したときは、右不動産について右取得時効期間の進行中に締結され、所有権移転請求権仮登記により保全された売買予約上の買主の地位は消滅し、時効取得者は、その所有権の取得を登記なくして右仮登記権利者に対抗することができる。
事件番号: 昭和41(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和44年2月27日 / 結論: 棄却
不動産の譲受人を債権者とし譲渡人を債務者として右不動産について処分禁止の仮処分登記が経由され、その後第三者に対する所有権移転登記が経由された場合において、仮処分債権者たる譲受人より譲渡人に対する本案訴訟としての所有権移転登記手続請求の訴と右第三者に対する所有権取得登記の抹消登記手続請求の訴とが併合して審理され、仮処分債…
事件番号: 昭和57(オ)452 / 裁判年月日: 昭和58年7月5日 / 結論: 棄却
不動産の売買の遡及的合意解除がされた場合、買主から右不動産を取得したが対抗要件としての登記を経由していない者は、たとえ仮登記を経由したとしても、民法五四五条一項但書にいう「第三者」として保護されない。
事件番号: 昭和63(オ)357 / 裁判年月日: 平成2年6月5日 / 結論: 破棄自判
売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記の経由された不動産につき抵当権の設定を受け、その登記を経由した者は、予約完結権の消滅時効を援用することができる。