売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記の経由された不動産につき抵当権の設定を受け、その登記を経由した者は、予約完結権の消滅時効を援用することができる。
売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記に後れる抵当権者と予約完結権の消滅時効の援用
民法145条,民法369条,民法556条
判旨
売買予約に基づく仮登記がされた不動産の後順位抵当権者は、予約完結権が消滅すれば自己の抵当権を全うできる地位にあるため、民法145条の「当事者」として同権利の消滅時効を援用できる。
問題の所在(論点)
売買予約に基づく所有権移転請求権保全仮登記が経由された不動産につき、後順位抵当権設定登記を経由した者は、当該予約完結権の消滅時効を援用できる「当事者」(民法145条)に該当するか。
規範
民法145条所定の「当事者」として消滅時効を援用しうる者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。もっとも、仮登記の順位保全効により本登記時に承諾義務を負い(不動産登記法旧146条1項等)、登記を抹消される関係にある者は、仮登記の基礎となる権利が消滅すれば自己の権利を全うできる地位にあるため、消滅によって「直接利益を受ける者」に当たる。
重要事実
不動産所有者Dは、Eとの間で売買予約を締結し、本件仮登記を経由した。その後、Dを相続したFは、上告人(銀行等)との間で抵当権設定契約を締結し、上告人は抵当権設定登記を経由した。しかし、売買予約から10年が経過してもE側(被上告人ら)は予約完結権を行使しなかったため、上告人は当該権利の消滅時効を援用し、本件仮登記の抹消を求めた。
事件番号: 昭和50(オ)1125 / 裁判年月日: 昭和51年3月19日 / 結論: 棄却
一、同一不動産を目的とする後順位仮登記担保権者は、債務者のために先順位仮登記担保権者の被担保債権を弁済するにつき民法五〇〇条にいう「正当ノ利益」を有する。 二、先順位仮登記担保権者に対する代位弁済により先順位仮登記担保権者の有する抵当権及び仮登記担保権を取得した後順位仮登記担保権者は、自己の債権につき債務者に履行遅滞が…
あてはめ
上告人は本件土地の抵当権者であるが、先順位の仮登記に基づく予約完結権が行使されると、不動産登記法の規定により本登記手続への承諾義務を負い、最終的に抵当権設定登記を抹消される危うい地位にある。他方で、当該予約完結権が消滅すれば、上告人は抵当権を全うすることができる。したがって、上告人は予約完結権の消滅によって直接利益を受ける者といえる。
結論
後順位抵当権者は、売買予約完結権の消滅時効を援用できる。本件では上告人の時効援用により予約完結権は消滅したため、仮登記抹消請求は認められる。
実務上の射程
時効援用権者の範囲に関するリーディングケースである。物上保証人や抵当不動産の第三取得者と同様、権利の消滅により「登記上の地位が向上する者」は直接の利害関係を有すると判断する。答案上は、145条の「当事者」の定義(直接利益を受ける者)を示した上で、登記制度上の不利益を具体的に指摘してあてはめるべきである。
事件番号: 昭和55(オ)1140 / 裁判年月日: 昭和57年3月25日 / 結論: 棄却
所有権移転請求権保全の仮登記の名義人は、登記上利害関係を有する第三者の承諾書等がないため、仮登記とは無関係に所有権移転登記を経由した場合であつても、特段の事情のない限り、仮登記義務者に対して仮登記の本登記手続を請求する権利を失わず、右仮登記の本登記を承諾すべき第三者の義務も消滅しない。
事件番号: 昭和35(オ)469 / 裁判年月日: 昭和37年2月16日 / 結論: 棄却
仮登記後本登記をするまでの間に、仮登記義務者により本登記の目的たる権利と相容れない処分が行われ、これに基づく第三者の権利取得の登記がなされたとしても、右本登記が為された以上、右第三者の権利取得は否認され、その登記の抹消を求めることができる。(同旨、昭和三二年六月七日第二小法廷判決、民集一一巻九三六頁、昭和三二年六月一八…
事件番号: 昭和46(オ)467 / 裁判年月日: 昭和47年10月26日 / 結論: 破棄差戻
代物弁済予約形式の債権担保契約を締結した債権者が、その担保目的を実現するにあたって、後順位債権者に優先して弁済を受けうる利息・損害金については、民法三七四条の規定は準用されないと解すべきである。