停止条件付代物弁済契約に基づき所有権移転の仮登記が経由されたのちに仮登記の目的物件につき権原を取得して占有を開始した第三者は、仮登記権利者が右停止条件付代物弁済契約に基づき目的物件の所有権を取得し本登記を経由しても、仮登記権利者に対し右所有権取得後本登記までの目的物件の占有につき遡つて不法占有による損害賠償責任を負うものではない。
所有権移転仮登記に後れて目的物件につき権原を取得し占有を開始した第三者と本登記経由以前の不法占有を理由とする仮登記権利者に対する損害賠償責任
不動産登記法7条2項
判旨
仮登記に基づく本登記が経由された場合であっても、登記の順位が遡及するのみであり、物権変動の効力自体が遡及するわけではない。したがって、本登記以前の第三者による占有について、本登記を経由した者が遡って不法占有を理由とする損害賠償を請求することはできない。
問題の所在(論点)
仮登記に基づく本登記がなされた場合、物権変動の効力が仮登記時に遡及するか。また、それにより本登記以前の第三者の占有に対して損害賠償請求が可能か。
規範
仮登記は、後の本登記に備えて順位を保全する効力(順位保全的効力)を有するにとどまり、物権変動の効力そのものを登記時より前に遡及させる効力はない。したがって、不法占有に基づく損害賠償請求権の成否は、現実に物権変動が生じた時点を基準に判断すべきである。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者Dとの間で、停止条件付代物弁済契約に基づき本件土地に所有権移転の仮登記を経由した。その後、第三者(上告人)がDから同一土地の代物弁済を受け、所有権移転登記を経由して占有を開始した。被上告人はDに対する本登記請求訴訟に勝訴し、昭和42年に判決が確定して所有権を取得したが、上告人が占有を開始した昭和39年以降、本登記を完了するまでの期間についても、賃料相当額の損害賠償を請求した。
事件番号: 昭和56(オ)782 / 裁判年月日: 昭和56年11月24日 / 結論: 棄却
不動産につき取得時効が完成したときは、右不動産について右取得時効期間の進行中に締結され、所有権移転請求権仮登記により保全された売買予約上の買主の地位は消滅し、時効取得者は、その所有権の取得を登記なくして右仮登記権利者に対抗することができる。
あてはめ
被上告人が本件土地の所有権を取得したのは、本登記手続請求訴訟の判決が確定した昭和42年4月8日である。本登記が経由されることで、対抗問題における順位は仮登記時に遡るが、所有権取得という実体法上の効力まで遡及するものではない。上告人が占有していた昭和39年から本登記完了までの期間において、被上告人はまだ所有権を取得しておらず、上告人は被上告人との関係で不法占有者とはならない。よって、所有権取得以前の期間について損害賠償を請求することはできない。
結論
仮登記に基づく本登記による実体法的効力の遡及は認められず、本登記以前の期間に関する損害賠償請求は棄却される。
実務上の射程
仮登記の順位保全的効力の限界を示す基本判例である。答案上では、仮登記に基づく本登記によって不法占有や不当利得(使用利益)を遡及的に追及できるかという文脈で使用する。あくまで「順位」の遡及にすぎず「物権変動」の遡及ではないという論理を明示する。
事件番号: 昭和52(オ)732 / 裁判年月日: 昭和53年9月7日 / 結論: 破棄差戻
農地についてその宅地化を目的とする売買契約が二重に締結され、各買主が条件付所有権移転の仮登記を経由し、その間右農地が市街化区域に属することとなつた場合において、第二の買主が農地法所定の手続を了してその売買契約の効力を発生させたうえ、農地を宅地としたときは、特段の事情のない限り、売主と第一の買主間の売買契約は完全にその効…
事件番号: 昭和63(オ)68 / 裁判年月日: 平成3年4月19日 / 結論: その他
一 担保仮登記がされている不動産について、参加差押えが清算金の支払債務の弁済前(清算金がないときは、清算期間の経過前)にされた場合においては、先行してされていた国税の滞納処分による差押えが解除されていないときであつても、担保仮登記の権利者は、その仮登記に基づく本登記の請求をすることができない。 二 担保仮登記の権利者は…
事件番号: 昭和57(オ)452 / 裁判年月日: 昭和58年7月5日 / 結論: 棄却
不動産の売買の遡及的合意解除がされた場合、買主から右不動産を取得したが対抗要件としての登記を経由していない者は、たとえ仮登記を経由したとしても、民法五四五条一項但書にいう「第三者」として保護されない。
事件番号: 昭和31(オ)172 / 裁判年月日: 昭和33年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記は物権変動の対抗要件にすぎず、第三者が登記名義を有しない実体上の所有者を認め、登記名義人への権利帰属を否認することは妨げられない。また、未登記不動産の譲受人が直接自己名義で行った所有権保存登記は、現在の権利状態と符合する限り有効である。 第1 事案の概要:本件土地は実質的にA1の所有であ…