農地についてその宅地化を目的とする売買契約が二重に締結され、各買主が条件付所有権移転の仮登記を経由し、その間右農地が市街化区域に属することとなつた場合において、第二の買主が農地法所定の手続を了してその売買契約の効力を発生させたうえ、農地を宅地としたときは、特段の事情のない限り、売主と第一の買主間の売買契約は完全にその効力を生じ、第一の買主は第二の買主に対し仮登記に基づく本登記の承諾を求めることができる。
農地の宅地化を目的とする二重の売買契約に基づき各所有権移転の仮登記を経由した後該農地が第二の買主によつて宅地化された場合と第一の買主の売買契約の効力
農地法5条,民法555条,不動産登記法2条,不動産登記法7条,不動産登記法105条
判旨
農地の二重売買において、第一の買主が農地法上の手続を怠っている間に、第二の買主が同手続を完了し農地を宅地化したとしても、特段の事情がない限り、第一の買主との売買契約は完全に効力を生じる。したがって、第一の買主は、先に備えた仮登記に基づき、第二の買主に対し本登記への承諾請求が可能である。
問題の所在(論点)
農地法上の許可(または届出の受理)を停止条件とする農地の二重売買において、後位の買主が先に手続を完了させ現況を宅地化した場合、前位の買主による条件成就の主張(売買契約の効力発生)は認められるか。特に、他方の努力によって現況が変更された結果を自己に有利に援用できるかが問題となる。
規範
農地の宅地転用を目的とする売買契約が二重に締結され、各買主が条件付所有権移転の仮登記を経由した状況で、当該農地が市街化区域に指定された場合、先に仮登記を経由した第一の買主が農地法所定の手続を履践する前に、第二の買主が同手続を了して現況を宅地としたときは、「特段の事情」のない限り、売主と第一の買主間の売買契約は当然に完全な効力を生じる。この結果、第一の買主は仮登記に基づく本登記手続請求権を取得する。
重要事実
事件番号: 昭和52(オ)589 / 裁判年月日: 昭和54年9月11日 / 結論: その他
停止条件付代物弁済契約に基づき所有権移転の仮登記が経由されたのちに仮登記の目的物件につき権原を取得して占有を開始した第三者は、仮登記権利者が右停止条件付代物弁済契約に基づき目的物件の所有権を取得し本登記を経由しても、仮登記権利者に対し右所有権取得後本登記までの目的物件の占有につき遡つて不法占有による損害賠償責任を負うも…
売主Dは、現況が田である本件土地を、宅地転用目的で第一買主(上告人)に売却し、仮登記を完了した。その後、本件土地は市街化区域に指定されたが、上告人は農地法上の手続を行わずに無断で埋立工事を開始し、叱責を受けて中断した。その間にDは第二買主ら(被上告人ら)に二重売却し、被上告人らは農地法5条の届出を受理された上で、工事を完成させて現況を宅地化した。第一買主である上告人が、第二買主らに対し、仮登記に基づく本登記手続の承諾を求めたところ、原審は公平の観点からこれを否定した。
あてはめ
本件では、上告人が第一の買主として先に条件付所有権移転仮登記を備えていた。その後、土地が市街化区域に指定されたことで農地法上の制限が緩和され、さらに被上告人らの行為によって土地が物理的に宅地化された。農地法上の制限は「農地」であるからこそ課されるものであり、現況が宅地となった以上、契約の効力発生を妨げる法的障害は消滅したといえる。原審は、上告人が他人の工事結果を援用することを「公平の観念」に反するとしたが、特段の事情がない限り、現況の変化という客観的事実に基づいて契約の効力発生を認めるべきであり、上告人は後順位者である被上告人らに対して優先する地位にある。
結論
第一の買主は、特段の事情がない限り、第二の買主に対し仮登記に基づく本登記手続の承諾を請求することができる。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
農地の二重譲渡における対抗関係の処理(不動産登記法109条関連)において、農地法上の制限解除が「誰の努力によるものか」は原則として問われないことを示した。答案上は、条件付売買の効力発生時期と、仮登記による優先的地位の帰趨を論じる際に、他者の行為による状況変化であっても「特段の事情」がない限り条件成就を認めるべきとする文脈で使用する。
事件番号: 昭和42(オ)495 / 裁判年月日: 昭和42年11月10日 / 結論: 棄却
農地法第三条または第五条にもとづく知事の許可は、農地法の立法目的に照らして、当該農地の所有権の移転等につき、その権利の取得者が農地法上の適格性を有するか否かの点のみを判断して決定すべきであり、それ以上に、その所有権の移転等の私法上の効力やそれによる犯罪の成否等の点についてまで判断してなすべきではない、と解するのが相当で…
事件番号: 昭和41(オ)749 / 裁判年月日: 昭和42年1月19日 / 結論: 棄却
所有権移転請求権保全の仮登記の原因表示と実質上の権利関係との間に若干の相違があつても、当該仮登記は、特定不動産の所有権移転請求権を保全するための仮登記として同一性を害しないかぎり、有効である。
事件番号: 平成13(受)94 / 裁判年月日: 平成13年10月26日 / 結論: 破棄自判
農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても,特段の事情のない限り,代金を支払い農地の引渡しを受けた時に,所有の意思をもって農地の占有を始めたものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和56(オ)782 / 裁判年月日: 昭和56年11月24日 / 結論: 棄却
不動産につき取得時効が完成したときは、右不動産について右取得時効期間の進行中に締結され、所有権移転請求権仮登記により保全された売買予約上の買主の地位は消滅し、時効取得者は、その所有権の取得を登記なくして右仮登記権利者に対抗することができる。