農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても,特段の事情のない限り,代金を支払い農地の引渡しを受けた時に,所有の意思をもって農地の占有を始めたものと解するのが相当である。
転用目的の農地の売買につき農地法5条所定の許可を得るための手続が執られていない場合における買主の自主占有の開始時期
民法162条,農地法5条
判旨
農地を転用目的で買い受けた者は、農地法5条の許可が得られていなくても、代金を完済し引渡しを受けた時は、特段の事情のない限り所有の意思をもって占有を始めたものと解される。
問題の所在(論点)
農地法5条所定の転用許可がない状態で農地の引渡しを受けた買主につき、民法162条の「所有の意思」が認められるか。許可未取得を理由に、所有の意思が「不完全」として否定されるべきかが問われた。
規範
民法162条にいう「所有の意思」の有無は、占有取得の原因たる権原の客観的性質によって外形的に決すべきである。農地法5条所定の転用許可を条件とする売買であっても、買主が代金を支払い、当該農地の引渡しを受けたのであれば、買主は将来の完全な所有権取得を前提として目的物を排他的に支配する意思を有しているといえる。したがって、許可手続が執られていない場合であっても、特段の事情のない限り、引渡しを受けた時に「所有の意思」をもって占有を開始したものと解するのが相当である。
重要事実
買主X(上告人)は、売主Y(被上告人)から農地を転用目的で買い受け、昭和52年に代金を完済し、農地法5条の許可を条件とする所有権移転仮登記を経由した。Xは契約直後から農地の引渡しを受け、自ら管理し、後にYに賃貸するなどして占有を継続したが、合意された期限を22年以上経過しても転用許可申請は行われなかった。Yは、Xの許可申請協力請求権が時効消滅したと主張し、仮登記の抹消を求めて提訴。これに対しXは、20年間の占有継続による取得時効を援用した。
事件番号: 平成3(オ)1817 / 裁判年月日: 平成6年9月8日 / 結論: 破棄差戻
地方公共団体が、使用目的を定めないで農地を買い受ける契約をした後、右農地を農地法五条一項四号、農地法施行規則七条六号所定の用途に供することを確定したときは、右売買契約は、その時点におい農地法所定の許可を経ないで効力を生ずる。
あてはめ
本件において、Xは売買契約に基づき代金全額を支払い、農地の引渡しを受けている。Xは自ら農地を管理し、その後はYに賃貸して賃料を得るなど、所有者と同様の態様で占有を行っている。農地法上の許可が未成就であり、登記上も条件付仮登記にとどまっている事実は、買主が実質的に排他的支配を開始したという客観的な権原の性質を左右するものではない。したがって、Xには占有開始時から所有の意思が認められ、20年間の占有継続により取得時効の要件を満たすと判断される。
結論
買主による農地の取得時効が成立するため、売主による仮登記抹消請求は認められない。
実務上の射程
農地法上の制限がある場合でも、売買契約という自主占有権原に基づき引渡し・代金完済があれば所有の意思は肯定される。答案上、所有の意思が争点となる場面では、行政上の制限や条件の成否といった法的地位の不安定さよりも、引渡しや代金支払といった「占有取得の客観的外形」を重視すべきであることを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和51(オ)982 / 裁判年月日: 昭和51年12月20日 / 結論: 棄却
農地の買主が農地法五条の許可申請手続に協力しない場合でも、売買代金が完済されているときは、特段の事情のない限り、売主は買主が右協力をしないことを理由に売買契約を解除することはできない。
事件番号: 平成14(受)1008 / 裁判年月日: 平成15年6月13日 / 結論: 破棄差戻
不動産の売買等を業とする会社が,地目変更等のためと偽って不動産の所有者から交付を受けた登記済証,白紙委任状,印鑑登録証明書等を利用して,当該不動産につき同社への不実の所有権移転登記を了したが,当該所有者が,虚偽の権利の帰属を示すような外観の作出につき何ら積極的な関与をしておらず,上記の不実の登記の存在を知りながら放置し…
事件番号: 昭和43(オ)938 / 裁判年月日: 昭和45年11月26日 / 結論: 破棄差戻
農地法六一条の規定により国から農地の売渡を受けた者であつても、指定開墾完了時より三年を経過した後には、都道府県知事または農林大臣の許可を得たうえ、当該農地を農地以外のものに転用するためその所有権を他に移転することができるから、右期間経過前に、将来所有権の移転が可能となつたときに完結する約定のもとに、当該農地につき売買の…
事件番号: 昭和43(オ)1167 / 裁判年月日: 昭和44年9月11日 / 結論: 棄却
譲渡令による強制譲渡手続が譲渡令書の未交付の状態において譲渡令が廃止され、農地法が施行された場合は、該強制譲渡の手続を受け継ぐ手続は、農地法施行法一三条による農地法一五条およびこれに関連する法令による手続である。